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2026.06.25(木)

「明日のナビゲーションを開拓する」ASNAV
~「みちびき5号機」の喪失を乗り越えて~

準天頂衛星システム「みちびき」は日本版GPSとも呼ばれる日本の衛星測位システムです。2010年にJAXAにて初号機が打ち上げられ、2017年から内閣府に移管され、2017年度に2~4号機を打ち上げ、2018年11月から4機体制での運用が開始されました。日本からほぼ天頂方向に常に測位衛星がいることで、ビルが建ち並ぶ都心部や、樹々に覆われている山間部でも測位衛星からの信号が受けられることで、安定した測位を行うことが出来るようになりました。

そして2024年度から2025年度にかけて、同時に開発を行ってきた5号機、6号機、7号機を打ち上げ、7機体制となることで、他国の測位衛星を使用することなく、「みちびき」だけで位置を特定することが出来るようになることが計画されていました。

この5号機、6号機、7号機にはJAXAが開発を行っている「高精度測位システム」(ASNAV、アスナブ)の機能が搭載されていました。ASNAVはスマートフォンやカーナビのような一般的な受信機で現状5~10m程度のユーザ測位精度を1mにまで飛躍的に向上する機能で、5号機、6号機、7号機打上げ後に約3年間の検証を行い、将来的に寿命を迎え、入れ替えられる2号機~4号機、初号機後継機の後継機にもASNAVの機能が搭載されることで実現する計画でした。

2025年12月22日のH3ロケット8号機 打上げの様子
この後、衛星フェアリング分離時に異常が発生してしまう

静止軌道衛星の場所を確保する為、まず2025年2月2日に「みちびき6号機」が先に打ち上げられました。そして、2025年12月22日に「みちびき5号機」が打ち上げられたのですが、H3ロケット8号機の打上げ失敗により喪失してしまいました。しかし、「みちびき」そして「ASNAV」の歩みは止まりません。「みちびき5号機」を喪失してしまったASNAVの計画を今後、どのように進めていくことを検討しているのか、ASNAVのプロジェクトマネージャの松本 暁洋(まつもと あきひろ)と、サブマネージャの明神 絵里花(みょうじん えりか)に聞きました。(※役職は撮影時(6/10)時点)

(左)松本 暁洋 プロジェクトマネージャ (右)明神 絵里花 サブマネージャ

「みちびき5号機」の喪失とその影響

―H3ロケット8号機の打ち上げ時、どのような様子だったのでしょうか?

明神:私はJAXAの東京事務所にてYouTubeのライブ配信をしていました。その時、「第二段エンジンが早期に燃焼を停止したことが確認されました。」という音声が入り「何があったのだろう?」「まさか・・・」と言葉を発することが出来なくなりました。ライブ配信の現場ではライブ配信をご覧になられている皆様と同じ情報しか届いていないので、ライブ中継が中断された後も追加情報を祈る気持ちで待っていました。その時、入手できていた高度と速度からもし衛星と通信ができて、機能が失われていなかったとしても、「みちびき5号機」が持っている推進力だけでは準天頂軌道まで到達することは難しいと思われましたので、「どうしよう」と話しながら、茫然自失になりました。

―ASNAVは「みちびき5号機、6号機、7号機」に搭載されていますが、特に「みちびき5号機」には、要となる機能が搭載されているとお聞きしていますが

図1:高精度測位システム(ASNAV) 構成図

松本:はい、ASNAVは「①衛星間測距システム(ISR)」「②衛星/地上間測距システム(PRECT)」「③地上検証システム」と大きく3つの機能があり、「①衛星間測距システム(ISR)」の「衛星間測距信号」を送信する機能(図1:青矢印)は「みちびき5号機」にのみ搭載されていました。

図2:衛星間測距システム(ISR)

測位衛星の位置は、地上に設置した複数の観測点(地上監視局)を基準とし、そこから衛星までの距離を測ることで、求めています。精度を上げる為には様々な方向から測ることが望ましいのですが、衛星から地球を見るとほぼ同じ方向になってしまうのです。そこで、衛星同士で距離を測り、相手衛星を宇宙空間にいる監視局と見立てることで精度を上げるのが「衛星間測距システム」なのですが、その送信機能を唯一搭載しているのが「みちびき5号機」でした。

―「みちびき5号機」が喪失したことで、どのような影響が考えられるのでしょうか?

明神:ユーザの測位精度というのは
A)測位衛星がどこを飛んでいるかを示す測位信号に含まれる衛星の軌道・時刻情報の精度
B)スマートフォンやカーナビといったユーザ受信機やその受信機が置かれている環境
C)ユーザ受信機からどれだけ測位衛星が見えているかといった測位衛星の配置
という3つの要素がどれくらいの誤差があるかで決まります。

今回の「みちびき5号機」の喪失で一番影響を受けるのはC)の測位衛星の配置です。7機体制から当面の間6機運用になることで、C)の測位衛星配置による誤差が7機体制の場合よりは劣化するのではないかと予想しています。

明神 絵里花 サブマネージャ

―劣化とは具体的にはどれくらい悪くなるイメージでしょうか?

松本:7機体制で1mの精度(=誤差)が出ると期待していたところが、6機ですと倍程度の誤差になってしまうということです。

―スマートフォンの位置情報の精度が悪くなるということですか?

松本:「みちびき5号機」の喪失の影響は「みちびき」だけを使って測位した場合だけです。元々、スマートフォンやカーナビといったものはGPSを始めとする他国の測位衛星も用いられているので、皆様の生活に影響するものではないのでご安心ください。今後も新しい「みちびき」が追加されることで、段階的にGPS等を使った測位精度も向上いたします。

ASNAVの今後の展開は?

―今後、「みちびき」と「ASNAV」はどのような計画を立てているのでしょうか?

松本:既に、2025年より「みちびき」11機体制に向け、3号機の後継機と新規の8号機の2機の「みちびき」の開発に着手しており、さらに、2026年度には2号機の後継機と4号機の後継機の2機の「みちびき」の開発に着手し、『準天頂衛星システム第一期増強プロジェクト』として、新しい4機の「みちびき」の開発が進むことになります。

4機の新規衛星には、ASNAVの「①衛星間測距システム(ISR)」の機能と「②衛星/地上間測距システム(PRECT)」が搭載され、8号機には5号機で失った「衛星間測距信号」を送信する機能が搭載される計画ですので、8号機が打ち上がれば「①衛星間測距システム(ISR)」が使えるようになります。

松本 暁洋 プロジェクトマネージャ

―2026年8月7日に「みちびき7号機」の打上げが予定されていますが、こちらは今までの「みちびき」と何か異なるのでしょうか?

明神:はい、今回は準天頂衛星システム「みちびき」のなかで、初めて「準静止軌道」という軌道に投入されます。

図3:準天頂衛星の軌道(地上軌跡)での7号機の位置

―「準」と付くと通常の「静止軌道」とは何が異なるのでしょうか?

明神:赤道上を飛んで、地上からは衛星が止まっているように見える「静止軌道」とは異なり、「準静止軌道」は赤道より少しだけ傾いて飛ぶ軌道です。その為、地上から衛星を見ると、図3のように少しだけ赤道付近を動いているように見えます。日本からは常に見えていることは「静止軌道」と同じなのですが、少し動くことで軌道の位置がより正確に求められます。今回、この精度を確認することはJAXAが行う実証の中で大きなポイントでもあるので、ようやく検証が出来ると楽しみにしています。

また、「静止軌道」を飛んでいる衛星は約3週間に1度、衛星に搭載されているスラスターという推進装置を用いて、軌道制御を行っているのですが、その際、約2日サービスを停止しなければなりません。一方、8の字の軌道である「準天頂軌道」を飛んでいる初号機後継機、2号機、4号機も同様に軌道制御を行っているのですが、こちらは半年に1度なのです。そして、「準静止軌道」となる7号機も半年に1回で軌道制御を行うことが出来ることも、「静止軌道」と異なる点で、稼働率等の観点で、測位サービスを行うには優位な軌道だと思います。

参考:みちびきの軌道(内閣府、みちびきサイト)

―今後の意気込みを教えてください。

ASNAVの模型と松本プロマネージャ、明神サブマネージャ

明神:「みちびき5号機」は喪失してしまい、「①衛星間測距システム(ISR)」が使えませんが、「②衛星/地上間測距システム(PRECT)」や何か他の工夫で精度を上げられないかということは引き続き取り組んでいきたいと思っています。まずは目の前にある「みちびき7号機」の打上げと、その実証を確実に取り組んでいきます。

松本:我々は「みちびき5号機」を喪失したことで、ものすごいダメージを受けましたが、凹んではいません。プロジェクトメンバー全員が「みちびき6号機」「みちびき7号機」によって測位精度向上を実証し、良い成果を出そうと思っています。

「より良い信号を、より早く届ける」

その思いを胸に、「みちびき7号機」そして、新規の4機の開発に挑みます。これからの挑戦にも期待してください。

取材日:2026年6月
2026.6.25  文:松﨑

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