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2025.06.17(火)

地球の水を見る「AMSRシリーズ」
~1.5秒間に1回転する「高性能マイクロ波放射計」~

「AMSRシリーズ」の30年

『JAXA地球観測データ利用30年』特集の第3弾では、「AMSRシリーズ」についてご紹介します。 「AMSRシリーズ」の「AMSR」(あむさー)はAdvanced Microwave Scanning Radiometer の頭文字で、衛星の名前ではなく、衛星に搭載されているセンサの名前です。日本語の名称は「高性能マイクロ波放射計」です。

図1:NASAのAqua衛星搭載されたAMSR-Eの外観

AMSRは図1のような外観で、衛星の上部で約2mの円盤の部分が宇宙空間において、1.5秒に一回転というスピードで回るアンテナで、地表面や大気などの自然界から放射または散乱される微弱なマイクロ波を観測することで、陸地の土壌水分量、積雪の深さ、海面水温、海上風速、海氷密接度、空気中の水蒸気、降水など地球上の水に関する情報を取得しています。

図2:日本のマイクロ波イメージャの歴史

図2の通り、JAXAの地球観測データの利用が始まった1995年に運用されていた海洋観測衛星「もも1号」(MOS-1) と「もも1号b」(MOS-1b)にはAMSRの前身であるマイクロ波放射計(MSR)が搭載されていました。その後、大幅に機能・性能を向上した、2002年に環境観測技術衛星「みどりⅡ」(ADEOS-II)に搭載された高性能マイクロ波放射計(AMSR)とNASAのAqua衛星に提供された改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)が登場しました。
そして、AMSRシリーズは水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)の高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)へ引き継がれ、2025年6月24日に打上げを予定している温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」にも「高性能マイクロ波放射計3」(AMSR3)が搭載されています。AMSRシリーズのデータは、20年以上蓄積することにより、北極海氷面積の減少傾向近年の南極海の海氷の減少を捉えるなど、地球温暖化の影響を受けやすい極域等の監視にも活用されており、AMSR3により、さらに30年以上の長期観測を目指します。

図3:「もも1号」搭載のMSRとAqua搭載のAMSR-Eの比較

図3は「もも1号」に搭載されていたMSRとAquaに搭載されていたAMSR-Eの観測画像の比較です。マイクロ波放射計の空間分解能(※1)はアンテナの大きさでほぼ決定されます。MSRは直径約50cmでしたが、AMSR-Eでは直径は1.6mと大きくなったため、同じ周波数で比較すると2~3倍の空間分解能で観測できるようになります。同じ周波数の観測ではないので、完全な比較にはなりませんが、空間分解能で示すとMSRの31.4GHz(図3:右上)は約23kmでしたが、AMSR-Eの36.5GHz(図3:左下)で約11kmとなり、1マスで示されていた範囲の情報が約4倍の4マスで示すことができるようになり、ぼんやりしていた四国地方の形がはっきり見えるようになったことが分かります。

観測周波数、チャネル数もAMSRの進化と共に増えており、観測できることが増えました。MSRでは23GHzと31GHzの2チャンネルでしか観測できませんでしたが、AMSR-Eでは12チャネルに増加し、海面水温や土壌水分を観測可能な6.9GHzや、陸上の降雨量推定に欠かせない89GHz(図3の右下)でも観測ができるようになり、さまざまな物理量も推定できるようになりました。2025年6月に打上げ予定の最新のAMSR3では、新規に89GHzよりも高い周波数帯を追加したことによって、AMSR2では観測できなかった降雪量を観測することができるようになります。 北極や南極といった高緯度域では、気温が低いことから、降水の大部分を降雪が占め、さらに地表面が雪や氷床に覆われている場合が多くあり、これまでのAMSRシリーズでは、降雪を正しく推定することができませんでした。AMSR3では降雨と降雪の両方の観測が可能となり、全球の水循環・気候変動研究への貢献が期待されています。

直ぐに見られるAMSRデータ

図4:AMSR地球環境ビューア(AMSR Viewer)の画面

現在、観測されたデータはAMSR地球環境ビューア(AMSR Viewer)(図4)によって、観測後、数時間という早さで見られるようになっています。こちらにはAquaのAMSR-Eが観測した2002年6月1日~2011年10月4日のデータと、AMSR2が観測した2012年7月3日以降のデータが掲載されています。
もちろん、「GOSAT-GW」のAMSR3が観測したデータも準備が整い次第、表示されますのでご期待ください。

AMSRシリーズのデータの利用

AMSRシリーズで観測されたデータは、観測後数時間で利用者に届くことから、数値気象予報、漁業、航行支援、気候変動の把握等、幅広い分野で利用されています。(※2) 気象予報と聞くと気象庁の静止気象衛星ひまわりでの観測が真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、AMSR2が観測した輝度温度、海面水温、海上風速、海氷密接度、土壌水分量、積雪深等のデータも、数値気象予報の予報精度の向上や、現況の監視・解析等に使用されています。

図5:「しずく」が観測した台風(2021年9月29日)
地上レーダが捉える前から観測することができる

日本に接近する可能性のある台風が発生すると、天気予報で台風の強さや進路の予測をニュース等で目にする機会が増えると思いますが、海上から近づいてくる台風の様子を、地上レーダが観測できる範囲に入るよりもずっと前から観測することは、AMSRシリーズが得意とするものの一つです(図5)。
AMSR3で新たに追加される166及び183GHz帯のデータによって、高度4~7kmの高度の水蒸気の情報を得ることができるようになるため、これらのデータも活用することで、豪雨や台風の範囲・進路などの予報精度の向上が期待されています。今後も、AMSRシリーズの活躍にご期待ください。

※1:空間分解能:画像の1ピクセルが地表面何メートルかを表す衛星のセンサの性能を表すもの

※2:第一期水循環変動観測衛星「しずく」の気象庁での利用について
https://www.jaxa.jp/press/2013/09/20130912_shizuku_j.html

JAXA地球観測データ利用30年
「地球観測データ利用に関する第一宇宙技術部門のこれまでの歩み」JAXA地球観測研究センター(EOR)設立30周年
地球を見守り続けてきた「だいちシリーズ」

<関連サイト>
GOSAT-GW×H-IIAロケット50号機 特設サイト

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