お知らせ

2026.07.30(木)

「利用が技術をみちびく」ーー中須賀真一教授が語る、
ASNAVとみちびきが切り拓く高精度測位の未来

2026年夏、準天頂衛星システム「みちびき」7号機の打上げが迫っています。4機体制から6機運用へ。そして将来の7機体制、11機体制へ。日本独自の測位インフラとして存在感を高めるみちびきですが、その進化を技術面から支えているのが、高精度測位技術の研究開発・実証を担うJAXA ASNAV(Advanced Satellite NAVigation System)です。

打上げを目前に控えたタイミングで、立命館大学の中須賀真一教授に、みちびきとASNAVの現在地と未来について話を伺いました。聞き手は新しくASNAVのプロジェクトマネージャに就任したJAXA明神絵里花と、7月1日までプロマネを務めた松本暁洋の二人です。

左から中須賀教授、JAXA松本、明神

【利用が技術をみちびく】

中須賀教授は内閣府の「衛星測位ワーキンググループ」座長を務めるなど、長くみちびきの発展を見守ってきました。初号機のみちびき(2010年打上げ)から7号機までの歩みについて、中須賀教授は「技術を引っ張ってきたのは利用」と断言します。利用者側が必要とする精度・性能があり、それを実現するために開発者が技術を高めてきた結果、今のみちびきがあると言います。

中須賀(以下敬称略)「利用者がニーズを掲げ、JAXAやメーカーが必死で開発を進める。同じ構造が「はやぶさ」と情報収集衛星にもありますが、「この性能がなければ任務を達成できない」「このデータを取れなければ世界一の研究ができない」そういう政府や研究者の強い要求があるから技術が伸びます」

「日本の技術者は本当に真面目です。明確な目標が示されれば、とことん頑張る。その力を引き出すのが利用者です。みちびきもそのロジックで、内閣府がはっきりしたニーズを出し、JAXAとメーカーが応えることで伸びてきた。その中で高精度測位技術を磨いてきたのがASNAVですね。今、ASNAVの精度は世界でどの位置にいますか」

明神「各国の測位システムは精度を徐々に向上させていて、GPSとGalileoが世界トップをけん引し、みちびき/ASNAVがそれを追っている状況です」

中須賀「時刻の安定性も?」

明神「ASNAVの評価の中でGPSやGalileoの時系の安定性も確認していますが、みちびきの時系はGPSの時系とは精度よく一致しており安定しています。Galileo時系との長期比較ではGalileo時系に飛びが発生しているように見えることがあるので調査しています」

中須賀「世界もどんどん進化しているから頑張らないといけないね。GPSだったらアメリカの国防総省、GalileoだったらEU、つまり利用側が明確に要求を出して、やらなきゃいけない、応えなきゃいけない状況ですね。みちびきも強いニーズに応え、世界トップレベルを維持し続けることが大事です。一度でも精度競争で負けたら、ユーザーは他のシステムを使いますから」

「あとJAXAの技術だと、MADOCA(マドカ:Multi-GNSS Advanced Demonstration tool for Orbit and Clock Analysis:GNSS衛星の軌道や時計誤差を高精度に推定する技術)。MADOCAもすごいですね。昔は測位結果が安定するまで30分くらいかかっていました。それが今は収束時間も早くなり10センチ級まで来ています。頑張りましたよね。MADOCAで徹底的に技術を高めてきた成果が、今のみちびきにも入ってきているわけです」

【宇宙開発の新しい常識とみちびきの進化】

中須賀教授は宇宙開発の新潮流とみちびき/ASNAVの関連についても言及します。

「宇宙開発の進歩はA×Nで考えるべきです。Aは打上げ1回あたりの性能向上幅、Nは改良を積み重ねる回数です」

「これまでの宇宙開発はNが取れなかったんです。本当は2年に1回打上げたいのに、5年に1回になる。これが最悪なんです。打上げに失敗した時に1年ぐらい動かなかったりしますから」

「これに対し、スペースXは1年で160回以上打ち上げている。1回ごとの改良はそれほど大きくない。でも壊れたら直す、ユーザーの声を反映する。そういう小さな改良を何百回も繰り返している。 A×Nの「N」が革新的に向上したわけです。これが宇宙開発の常識を変えました」

「ただ、みちびきは実はこの考え方と相性がいい。シリーズ衛星であることでNが取れるからです。継続して開発するうちにいろいろ起こるんです。しかしそれをクリアすることで技術レベルが上がる。みちびきでも、3号機の時に軌道上で機器系統の課題がありましたね(※)」
※内閣府HP [お知らせ] 準天頂衛星の試験運用の再開について

松本「軌道上で帯放電現象が起きてスイッチが誤作動するというものでしたね。初号機後継機及び5~7号機の開発において対策を行いました」

(画像出典:みちびきウェブサイト( https://qzss.go.jp/overview/download/cg-image_qzs-3.html ) )

中須賀「そうした課題を解決する。だからどんどん良くなるんです。またシリーズであることで、技術試験衛星的に使うというか、次につながる技術を少しずつ入れて試すこともできる。これもシリーズ衛星の強みです」

【ソブリンティの確立とGNSSの今後の課題】

中須賀「みちびきについては「ソブリンティ」の概念も重要です。自分たちが自由に扱えるシステムを持つことが大事という意味ですね。GPSは優れたシステムですが、運用主体は米国です。平時はいいんです。でも世界情勢が変わったらどうなるか分からない」

「近年では通信分野でも、国家主権や経済安全保障が大きなテーマになっています。測位システムも同じです。日本独自のPNT(Position, Navigation and Timing)インフラを持つことはもはや国家基盤そのものです」

「主権っていうのは、自分がフリーハンドで扱えるシステムであること。誰かに頼んでやってもらうんじゃなくて、自分たちでこうやりたいって言ったらその通りできるっていうシステムが大事だっていうことを言っています。総務省の1500億円のコンステレーションもそう。アメリカだって例えばスターリンクも、使わせている国と使わせてない国がある。そうした社会情勢も鑑みて、みちびきの開発、運用が継続して成功し、日本独自のPNT基盤が確立されることが必要です」

明神「そうした基盤の確立に向けた課題は何でしょうか?」

中須賀「研究費と人ですね。こうした国のインフラとなる事業には、研究開発予算を定常的につけるべきです。予算を取りに行く、今年は取れた、取れないといった話ではなく、国に重要性を理解してもらって安定的に予算が付く。そのことで人も付きます。日本は少ない人数でよくやっていますよ。大学まで見渡しても50人くらいでしょう?」

明神「日本だと東京海洋大、東大、中部大、千葉工大や立命館大などに研究者がいますね」

中須賀「少ないですよね。NASAやESAだったらGNSSのコミュニティだけで300、400人は研究者がいます。アメリカだと大学も、州に1つくらいはGNSSを学べる大学がある。日本では近い将来、GNSSセンターみたいなものができてもいい。そこで測位はもちろんスプーフィングやジャミング、また月測位の研究など、JAXAが中心となって研究者が意見を交わせるコミュニティができるべきです。そうして研究者のレベルが上がり世界の学会とも活発に交流することで、最先端の知見や動向も遅滞なく入手でき、継続して世界のトップで戦うことができます」

インタビューではみちびきを長く見守り、かつ世界の宇宙開発に精通する中須賀教授ならではの視点が多く語られました。日本の準天頂衛星システムみちびきは今や実証段階を終え、社会インフラとしての地位を確立しつつあります。まずは8月7日に予定されている7号機打上げの成功を見守っていただくとともに、日本の測位研究の将来についても思いを馳せていただくと幸いです。

関連サイト
みちびき7号機×H3ロケット9号機特設サイト(ファン!ファン!JAXA!)
高精度測位システム(ASNAV)(JAXA第一宇宙技術部門)

最新情報を受け取ろう

公式ソーシャルアカウント