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2026.07.10(金)

【衛星ユーザインタビュー】
海域火山を見守る人々

日本近海には多くの海域火山(海底火山、火山島)が存在し、海上保安庁や気象庁などが監視をしています。JAXAではそんな海域火山の監視にも衛星の観測データを活用頂くため衛星画像表示Webサイト「火山活動速報システム」を公開しつつ、海上保安庁と海域火山の専門家と意見交換を行いながら、より的確に監視に役立つよう改良を続けています。今回はそんな海域火山の監視にご尽力されている3人の方に、JAXAの衛星である気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)がどのように役立ち、必要となっているかお話を伺いました。

(左)JAXA中右 浩二、(右)海上保安庁 髙梨泰宏さん 海上保安庁にて(背景は硫黄島の写真)

海域火山を見守る人々

まずはお一人ずつ簡単に自己紹介をお願いします。

野上 東京科学大学 総合研究院 多元レジリエンス研究センターで教授をしております野上 健治です。化学的な火山活動のモニタリング手法(火山噴火の予兆や、火山活動が始まった火山の活動がどのように推移していくのかを調査する方法)の研究・開発・観測を行っています。

髙梨 海上保安庁 海洋情報部 技術・国際課で火山調査官をしております髙梨 泰宏です。仕事は二つありまして、一つ目は海域火山の現状を調査し、火山の活動が活発になった時などに「ここで変色水がでています。」「ここで噴火現象がありました。」と船に対して、航行警報という情報を提供しています。 二つ目は火山調査研究推進本部(火山本部)への報告です。海域火山の情報は少ないので、我々が観測した情報は希少です。火山本部に報告することで、関連する行政機関、研究者の方々に情報が共有される仕組みになっています。

中右 JAXA 第一宇宙技術部門衛星利用運用センター 主任研究開発員の中右 浩二です。 火山や火災など熱に関連した災害の監視に関する研究開発に携わっており、大海原にある火山(海域火山)を監視するための衛星画像表示Webサイト「火山活動速報システム」を公開しています。

「しきさい」で海域火山の観測を利用

海域火山の観測に「しきさい」の観測データが活用されているとのことですが、「しきさい」は元々、火山観測を目的に作られた衛星ではありませんよね?どのようなことがきっかけで、利用され、皆様が集まることになったのでしょうか?

中右 最初のきっかけは2016年に、海上保安庁の小野智三さん(当時 沿岸調査課海洋防災調査室 火山担当)から頂いた問いかけでした。当時、火山噴火予知連絡会に衛星解析グループという衛星をもちいた火山噴火の予兆把握のための会合があり、JAXAもこれに参加していました。その会合の中で「衛星の赤外線による観測データも使えないか?」という話題として、当時打上げ間近であった「しきさい」について説明したところ、小野さんより「実は海には変色水というのがあって」というお話を伺い、海の色を見るのは「しきさい」の得意分野の一つでしたので、変色水が見えるかどうか試させてもらえませんか?というお話をさせていただいたのがきっかけです。
そして、海域火山の専門家がいらっしゃらないと、正しい解釈ができないと海上保安庁さんから野上先生をご紹介いただきました。

東京科学大学 野上健治教授(飛行機での現地観測の様子)

野上 元々は私の恩師(日本火山学会名誉会員、東京工業大学名誉教授 小坂丈予先生)が海上保安庁さんと海域火山の研究をされており、私も大学生時代からずっと研究をつづけてきました。助教授になった際に恩師より仕事を引き継ぎ、海上保安庁さんと一緒に仕事をすることになり、そのご縁で「衛星の観測データを使ってみては?」とお声がけいただきました。

髙梨 私がいる海洋情報部は海洋調査をして成果を海図などにして世の中に出すことが仕事です。今までは、海の深さなどを測る仕事を行っていました。北海道に赴任していた時は流氷の観測などもしており、その時は「だいち2号」の合成開口レーダー画像なども活用していました。海域火山に関しては、火山担当への異動に伴うものですが、JAXAさんとはご縁があるようです。

トカラ列島周辺海域での群発地震での調査と「しきさい」の活躍

2025年6月から続く鹿児島県トカラ列島周辺海域での群発地震では7月から8月にかけて現地での調査が行われたそうですが、どのような調査が行われたのでしょうか?

髙梨 当時、トカラ列島では群発地震が起きていたのは分かっていたのですが、地下で何が起きていたかというのは分かりませんでした。現象が火山性の場合には、海底の地形が変化したり、海底から熱水が出たりすることがあるので直接現場で観測をすることになりました。

図1:(左)マルチビーム音響測深機による海底地形調査のイメージ図 
(右)マルチビーム音響測深機に記録された噴気の例 ©海上保安庁(報道発表

海底から熱水が出るというのは、温泉のように湧き出ているのですか?

髙梨 そうです。温泉のように熱水が噴出していることがありまして、それを測量船のマルチビーム音響測深機(ソナー)でとらえることができます。また、過去にもほぼ同じ海域を測量しているので、過去の地形データと今回測量した地形データを比較することによって、地形変化があったかを確認することもできるのです。

火山性であれば、海底では色々な現象が起きている可能性があったのですが、調査の結果、地形の変化はなく、熱水も過去に確認されていた場所以外では、新しいものは確認できませんでした。

いつ噴火するかもしれない海域で船に乗るのは怖くはありませんか?

髙梨 水深がある程度深いところでは、海底火山が噴火しても水圧で抑えてくれるので、船を沈めるような爆風みたいなものは上がってきません。なので、水深が深いところは比較的安全に測量することができます。

野上 私は測量船に乗ってはいませんが、火山活動があきらかにはっきりしている場合、前兆として変色水がみられます。火山活動が起こると、津波が発生する可能性が高いので、事前に衛星の観測データなどで確認してもらうことでリスクを減らせます。

髙梨 測量船での観測中にも中右さんには衛星でこの海域を注意深く監視してもらっており、観測中にも変色水などを見つけたら、直ちに中止するので何かあれば連絡して欲しいと連携をとっています。

衛星の観測データはそのように役立てられているのですね。

野上 それだけではありません。航空機での観測は、全ての範囲を常時見ることができるわけではありませんし、緊急時の際にすぐに行くことも出来ません。しかし、衛星から見ると、広範囲で観測出来ているので、観測の空白域を埋めることができますし、安全に頻繁に観測できるのですごくメリットがあります。

今回の観測では、火山性地震ではなかったというのが結論でしょうか?

野上 トカラ列島では群発地震の際、島と島の間が急激に伸び、地盤変動が起こった場所が確認されました。
トカラ列島は全て火山島なので、当然マグマが関与しているのではないかという恐れがありました。
JAXAには宇宙から変色水などの変化がないか見てもらい、海上保安庁には測量船で地形を調査してもらった結果として、変わっていないということが分かりました。
結論としては、島と島の間は伸びているので、どこかでマグマの関与はあったと思われますが、海底面に変化がなく地表に出ていなかったということです。

参考:海上保安庁の調査結果

現地での観測と衛星による観測の違い

図2:(左)西之島 観測日:2022年4月18日 ©海上保安庁 海域火山データベースより
(中)西之島 「しきさい」可視画像 観測日:2022年4月27日
(右)西之島 「しきさい」紫外画像 観測日:2022年4月27日

海上保安庁さんではトカラ列島以外にも定期的に飛行機で現地観測されているとお伺いしていますが、現地で観測するにあたって、衛星の観測データはどのように活用されているのでしょうか?

髙梨 西之島方面ですね、我々は南方諸島と言っているのですが、そちらでも、定期的に観測を行っています。

野上 まず、行く前に衛星画像を見ています。衛星画像を見ることで、すごく広がっているよということが分かります。そのため、観測する際に、何キロくらい離れているところまで変色水があるか確認して、観測パターンを決めることができます。また、図2(中、右)で灰色に表示されている部分は噴煙なのですが、噴煙が長く続いていたり、太かったりすると火山活動がまだ活発だということを意味しています。これだけ活動している様子が見られるということは火山灰を含んでいる噴煙が出ている可能性があるということなのです。航空機に影響が出ますから避けて観測する必要があります。こういう情報をあらかじめ学習していくわけです。

現地では変色水が見えなかったものが衛星だったら見えるということはあるのですか?

髙梨 はい、目視観測との差ですが、西之島は衛星に非常によく映る変色水でして、肉眼で見るよりはるかに広い変色域を捉えている感じがします。目で見ると微妙で、周りの海水と同じかなと思うところでも、衛星画像だともっと広い範囲に広がっていますので、人間の目で見ている領域と宇宙から見ている領域の差を感じます。この辺りが衛星の方が有利なのかなというのを感じます。
しかし、白っぽい変色水の場合、衛星ではなかなか見えづらく、研究の余地があるようです。

変色水の色によって何かが異なるのですか?

野上 「変色水とは?」というお話になるのですが、酸性の温泉の中に入っているのは鉄とアルミニウムとケイ素(シリカ)そして、ナトリウムやカリウムが溶けています。ナトリウムとカリウムは海の中に沢山あるので、沈殿しません。酸性の熱水では水に溶けていた鉄やアルミニウムは、海水がアルカリ性で水に溶けず、水酸化物という形で沈殿してしまいます。シリカも温泉の中に入っていますが、沈殿してしまいます。

鉄とかアルミニウムの色を反映し、鉄が多いと図2(左)のように、赤く(茶色~緑色)見えるのですが、鉄が少ない場合はアルミニウムとシリコンなので、白っぽくしか見えないのです。なので、鉄が少ないマグマから熱水が沸いている場合にはどう頑張っても茶色とか緑色にはならないのです。

中右 鉄分(赤さび)が赤っぽく見えるのは、青や紫色、紫外線などを吸収し、残り(赤色)が跳ね返されることで、赤く見えているのです。図2(右)の紫外画像では、西之島から上へ青い色が広がっていますが、これは紫外線が暗いことを示しています。鉄分がたくさん紫外線を吸収してくれるので、目で見るよりも広い範囲ではっきりと周りとの明るさが違うとことが分かるのです。図2(左)と図2(右)を見くらべると、衛星画像は何倍も広い範囲に変色水が広がっていることが分かります。図2は同じ観測日ではありませんが、大体いつも衛星の方が広い範囲(色が淡い)の変色水まで見えているようです。

これに対して、鉄分が少ない場合には、変色水が白く濁って水色に見えます。これが「しきさい」は苦手なのです。以前も、小さくて白っぽい変色水では衛星「しきさい」のデータでは見えないケースが多々ありました。しかし、なぜ見えないか、まだきちんとわかっていないのです。
衛星で変色水をみるために、衛星データで推定した海水の色のデータを用いています。例えば、海水の色を推定するにあたり、雲や白波、太陽光のぎらつきを差し引いているのですが、水色の変色水では、それらと誤って変色を差し引いてしまっているのかも知れません。 今一度、立ち返って海の色の推定を行っておられる研究者にご意見いただきながら考えていく必要がありそうだと考えています。

髙梨 今後の研究の材料ですね。

他にも衛星の観測データでなければ分からないことはありますか?

野上 はい、あります。変色水が広がっている面積です。噴火の初期のように規模が小さければ、航空機から垂直写真が撮れたのですが、これだけ規模が大きくなると高く飛ばないと垂直写真が撮れないので、極めて難しいのです。変色水の面積と火山活動の関係について、一緒に研究できればうれしいです。

海域火山の監視で活躍する衛星観測

その他、海域火山の監視において衛星での観測が役にたったものはありますか?

図3:可視赤外によるカラー画像 海(青色)に対し、水色に見えるのが軽石

野上 特に役立ったのは福徳岡ノ場の噴火に伴う軽石の動向把握ではないでしょうか。沖縄本島などに大量に軽石が流れ着いたのですが、軽石がどちらの方向に流れているかを把握する際に非常に重要な役割を果たしてくれました。

髙梨 船はエンジンの冷却水として海水を使いますが、この海水と一緒に軽石を吸い込んでしまうとエンジンが止まってしまいます。当時、海上保安庁では衛星の観測データを使って、リアルタイムに航行警報を出すということはできませんでしたが、流れていく方向が判るだけでもその後の対応に役立ちました。

現在の取組では、JAXAさんから衛星の観測データをいただいて、海上保安庁が飛行機で現地に行って確認してから航行警報を出すというパターンが基本なのですが、将来的には衛星の観測データだけで、スピーディーに航行警報を出せるのが理想だと思っています。

中右 当時、JAXAではまだ衛星データから軽石を判別する技術や準備がない状態でしたが、国難としてJAXA内外に緊急対応チームを結成し、解析や外部連携して、特設サイトを開設し、さらにSNS等で広く情報発信を行いました。今後はより連携を強化して、皆様により早く情報を届けられるようにしたいです。

参考: 衛星「しきさい」(GCOM-C)等による軽石観測情報

気象衛星「ひまわり」による火山島噴火の様子(日本時間2022年1月15日13時~19時)

野上 あとは、トンガ王国の火山島の噴火ですね。トンガ王国には沢山の火山島があるのですが、2022年に非常に大きな噴火がありました。約8000kmも離れた場所なので、当初、日本には津波の影響はないとされていました。しかし、噴火の衝撃が大気を伝わって海面を叩き、想定外に短い時間で日本に津波が到達する非常に珍しい事例がおこりました。衛星の観測データをみて、凄い事が起こったのだなと分かりました。

他の国の火山観測は日本が国として実施することはできません。しかし、トンガでの噴火のように日本にも影響がある可能性もありますので、遠く離れた火山も宇宙から見られるのはとても大事なことなのです。

特に海域火山の場合、人知れず噴火して、人知れず噴火が終わっている事があるのですが、海底火山を常時観測することはなかなか難しいため、出来ていません。海上保安庁さんが定期的に現地の観測を行っているということは非常に重要なのですが、それと同時に天候にもよりますが毎日見ることが出来るため、衛星観測はとても大事な役割を果たしています。

参考:トンガ火山島 衛星観測情報 特設サイト

これからの海域火山の監視向けて

今後、どのようなことを衛星観測に期待されますか?

野上 衛星の観測はデータを撮る、貯めるという点に期待します。
ずっと何もなかった所に、何か起こったという場合(発災時)、それ以前の何もなかった時(平時)のデータが最も重要なのです。いざという時に、それ以前の(何もなかった時の)データと比較することで、変わったと言えるのです。

海域火山を研究する研究者が他にいない状況なので、衛星データを活用した海域火山監視を実用化していくなかで、ノウハウが残るといいと考えています。そのためにも衛星の観測データから色々な物を見て、観測を続けていき、データを蓄積されていくことはとても大事なことですし、JAXAさんに期待するところです。 できれば、そのデータもより手軽にアクセスできるといいですね。

高梨 船に火山情報を伝える者として、一番期待するのは高解像度の衛星ですね。先ほどもお話しした通り、現在は衛星の観測データだけでなく、飛行機で現地確認をして航行警報を出しています。これを衛星の観測データだけで航行警報を出したいので、より高解像度の衛星が上がるとよいと思っています。

もちろん、日常の観測として「しきさい」を継続利用できることも希望しています。

取材日:2026年1月
2026.7.10  文:松﨑

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