お知らせ
2026.06.29(月)
【解説】 EarthCARE衛星(はくりゅう)観測データ、
衛星雲レーダとして世界で初めて気象機関での予報に利用開始!
JAXAと欧州宇宙機関(ESA)が共同開発した雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE衛星(はくりゅう)」に搭載された雲プロファイリングレーダ(CPR)の観測データについて、欧州中期予報センター(ECMWF)が気象予報での利用を開始しました。
気象予報機関が衛星雲レーダの観測データを数値予報に利用するのは世界で初めてです。JAXAは2026年6月25日にプレスリリース「EarthCARE衛星(はくりゅう)データ、世界最高水準の気象予報精度を誇る欧州中期予報センターが利用を開始」を発表しました。また同日に、ECMWFは「World first as ECMWF brings cloud radar data into its global forecasting system 」、ESAは「A first: EarthCARE cloud data sharpen weather forecasts」で本成果を公表しています。
本ページでは、衛星雲レーダとして世界で初めて気象機関の予報での利用を実現した研究開発の概要と、その技術的な内容を解説します。

衛星観測データを予報モデルに取り込む「衛星データ同化」とは?
実際の観測データと数値シミュレーションの予測結果を融合させ、その時点で最も確からしい大気の状態を推定する手法をデータ同化と呼びます。特に衛星データは、地球全体を広範囲に観測できるため、現在の気象予報において重要な役割を担っています。
衛星データを同化しない場合でも、予報モデルでは地上の気象観測所や観測船、ラジオゾンデなどの地上観測データをもとに全球の大気の状態を推定します。しかし、海洋上や山岳地帯、極域など観測点が限られる地域では大気の状態を十分に把握できず、予報の出発点となる初期値に誤差が生じやすくなります。この誤差は予報時間の経過とともに増幅し、実際の大気の状態と乖離して予測精度の低下につながる可能性があります。
一方で、衛星データを同化すると、地上観測だけでは捉えられない広範囲の情報を利用することができるようになります。その結果、海洋上を含む全球の大気の状態をより正確に再現でき、予報の初期値の精度向上が期待できます。
図1は、はくりゅうのCPR観測データをECMWFの予報モデルに同化する概念図です。はくりゅうは約90分で1周する速さで地球を周回し、全球の多様な雲の鉛直情報を観測し続けています。それらの観測データは予報モデルの情報と統合(同化)され、より正確な大気の状態を推定することに活用されます。その結果、精度が向上した初期値に基づく予測が可能となり、より精度の高い気象予報を行うことにつながります。
CPRデータを気象予報モデルに同化するインパクト
従来、数値予報システムで利用される衛星観測データの多くは、水平方向の分布を取得する観測データでした。一方、CPRは雲の鉛直構造を詳細に観測できることが大きな特徴です。このようなデータを予報モデルに取り込むには、新たな技術開発を必要とします。
ECMWFは衛星搭載雲レーダの観測データを数値予報に取り込むための準備を長期間にわたって進めてきました。はくりゅうの打上げ後には、CPRの観測データをスーパーコンピュータによるシミュレーションの結果を比較・同化する実験を開始しました。ECMWFは、CPRデータを加えることが気象予報の精度を向上させることを確認し、2026年6月10日から数値予報システムでの利用を開始しました。

下段はデータ同化前後における数値モデル結果の違いを示す。(c) ESA/ECMWF
ECMWFが解析したCPRデータを気象予報モデルに同化する効果を、2026年6月10日の事例で示します。図2はレーダ反射強度の高度方向の断面図であり、氷雲や弱い降水では反射強度が低く、激しい雨や雪では反射強度が高く示されます。CPR観測データを同化した結果、北緯10度付近に位置する発達した降雨域について、その位置と強度が観測結果に近づくように改善されていることが分かります。さらに、北緯27度付近において雲頂高度が18 kmを超えて広がる非常に強い降雨域では、データ同化後、水平方向および鉛直方向の両方で、CPR観測に整合するように初期値の修正が行われています。一方で、他の地域では、もともとのモデルの結果がすでに観測とよく一致していたため、データ同化の影響は顕著ではありません。

図は、5日予報における二乗平均平方根誤差(RMSE)の変化率を示しており、値が小さいほど精度が高いことを示す。
(a)は予報3日目、(b)は予報4日目の風ベクトルに対する結果。解析期間は2024年12月1日から2025年8月31日まで。(c) ECMWF
図2に示した事例解析に加え、ECMWFは9か月間(2024年12月1日から2025年8月31日まで)の観測データを用いた同化実験を実施し、CPRデータが全球の予報精度に与える影響を評価しました。その結果、CPR観測データの同化によって、短期から中期の予報精度が全体として小幅ながらも向上をもたらすことが確認されました。特に、最も大きな予報改善効果は風の予報に現れ、南半球で顕著でした(図3)。図3では風の予報誤差が統計的に有意な水準で減少(すなわち、風の予報精度が向上)した場合が「+」で示されています。これは、雲観測データを同化することで、直接同化していない風向・風速などの変数についても予報精度が向上したことを示しています。雲の鉛直構造に関する情報が加わることで、モデル内の気圧配置をより正確に特定できるようになり、その結果、予報の基盤となる大規模な大気循環の表現が改善されたと考えられます。
衛星雲レーダ観測が気象予報に利用される時代へ
ECMWF予報システムにおけるCPRデータの利用開始は、衛星雲レーダ観測の数値気象予報での利用において世界初となる画期的な進展となります。従来の衛星データとは異なり、雲レーダは、雲や降水の鉛直構造に関する直接的な情報を提供します。これは、雲が降水過程に強く影響する、豪雨や台風のような気象現象をより正確に把握する上で特に重要と考えられています。
ECMWF事務局長のフロリアン・パッペンベルガー氏は、次のように述べています。
「雲レーダ観測の同化および予報システムでの利用は、世界の気象機関において初めての試みです。本ミッションは国際協力の成果であり、ECMWFの科学者たちはESAおよびJAXAの技術者と連携し、高品質なデータの確保に取り組んできました。さらに、オランダ気象研究所(KNMI)やカナダのマギル大学をはじめとする多くの協力機関の貢献にも深く感謝します。」
また、ECMWFでEarthCARE同化プロジェクトを率いるマーク・フィールディング氏は、次のように述べています。
「雲や降水の鉛直分布を直接観測する雲レーダの情報をIFSに取り込めるようになったことは、数値気象予報における革新的な進展です。EarthCAREは本来、現業予報を目的として設計されたミッションではありません。しかし、この観測データが予報精度の向上にも貢献することが示されたのは、雲・降水過程に関する新たな科学的理解の深化に加え、予期せぬ大きな成果であると言えるでしょう。」
ESA地球観測プログラム局長のシモネッタ・チェリ氏も次のようにコメントしています。
「これは、世界中の科学者や技術者、ミッションチームによる長年の努力と協力の成果です。特にCPRを提供したJAXAの貢献は重要でした。また、このデータを予報システムに統合するために尽力したECMWFにも感謝します。この重要なマイルストーンは、綿密な準備と検討の積み重ねによるものです。」
JAXA 瀧口 太理事のコメントは以下の通りです。
「今回、はくりゅうに搭載されたCPRの観測データが、ECMWFの数値気象予報に利用開始されたことを大変喜ばしく思います。世界初の運用レベルでの雲レーダ観測データの実装であり、雲が気象に与える影響に関する不確実性を低減する上で極めて重要な一歩となります。
本成果は、JAXAとESAをはじめとする国際協力のもとで培われた技術と知見が結実し、世界最高水準の数値予報に貢献していることを示す象徴的なものです。今後、各国の気象機関に広く活用されることで、極端気象への対応力向上や防災・減災への貢献が一層進むことを期待しており、引き続き国際連携を通じて気象・気候予測の高度化に取り組んでまいります。」
JAXAは、今後も「はくりゅう」の観測データを用いた研究開発に取り組み、気象予報および気候予測の精度向上への貢献を目指します。
〇参考リンク
本内容について関係各機関でプレスリリースを発表
JAXAのプレスリリースURL:
https://www.jaxa.jp/press/2026/06/20260625-1_j.html
ECMWFのプレスリリースURL:
https://www.ecmwf.int/en/about/media-centre/news/2026/earthcare-cloud-radar-data-world-first
ESAのプレスリリースURL:https://www.esa.int/Applications/Observing_the_Earth/FutureEO/EarthCARE/A_first_EarthCARE_cloud_data_sharpen_weather_forecasts
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