お知らせ

2025.12.01(月)

EarthCARE衛星「はくりゅう」の全観測データの
一般提供を開始しました!

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、欧州宇宙機関(ESA)と共同で雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星(愛称:はくりゅう)を開発し、2024年5月29日(日本時間)に打上げました。JAXAとESAは、雲・大気中の微粒子(エアロゾル)・放射の仕組みに関する「はくりゅう」の全標準プロダクトの一般提供を2025年12月1日から開始します。本記事は、今回公開する新しいプロダクトを用いて、「はくりゅう」が2025年8月10日に捉えた日本列島上に広がる雨雲の観測事例をご紹介します。

はくりゅうには、JAXAと情報通信研究機構(NICT)が開発した雲プロファイリングレーダ(CPR)、ESAが開発した大気ライダ(ATLID)・多波長イメージャ(MSI)・広帯域放射収支計(BBR)が搭載されています。

JAXAは、NICT、九州大学、国立環境研究所、東海大学、東京大学、リモート・センシング技術センターと協力して、観測データから雲・エアロゾル・放射の物理特性を推定するデータ処理手法(アルゴリズム)を開発してきました。今回、一般提供を開始するのは、CPR・ATLID・MSIの3センサ複合プロダクト、さらにBBRを加えた4センサ複合プロダクトで、これにより、「はくりゅう」のJAXAが開発する全10種類の標準プロダクトの提供が開始されることとなります。

「はくりゅう」は2025年8月10日14時(日本時間)に大阪付近を通過し、西日本から東日本にかけて広がる雨雲を観測しました。このとき九州北部では、線状降水帯も発生していました。図1は「はくりゅう」が捉えた雲の観測動画です。「はくりゅう」により、雲の内部構造を観測することができることが「はくりゅう」の大きな特徴です。

図2では、気象庁の解析雨量に「はくりゅう」の軌道を重ねています。雨が降っていたのは九州にとどまらず、西日本のほぼ全域から南東北まで、非常に広範囲に広がっていたことが分かります。図3では、気象衛星ひまわりが観測した雲画像(グレースケール)に、「はくりゅう」に搭載されたMSIが観測した雲の厚さ(光学的厚さ)を色で重ねたものです。気象衛星ひまわりとMSIの2つを組み合わせることで、西日本から南東北までの雨域を覆う雲の中に、厚い部分と薄い部分が入り交じり、複雑な水平構造になっている様子がわかります。

「はくりゅう」に搭載された雲レーダ(CPR)と大気ライダ(ATLID)は、雲の内部構造を詳しく観測することができます。次のセクションでは、CPRとATIDに加え、他のセンサの情報も含めた「3センサ複合プロダクト」および「4センサ複合プロダクト」を用いて、雲の内部がどのような構造になっているのかを解説します。

図1:2025年8月10日14時(日本時間)に、大阪付近に広がる降雨をもたらす雲の断面図を観測するEarthCARE衛星「はくりゅう」(動画)

図2:    はくりゅうの軌道(赤線)と気象庁解析雨量による降水量分布(観測時刻:2025年8月10日14時)。
JAXA線状降水帯集中観測モニタの画像に、はくりゅうの軌道を追記。
図3:はくりゅうが観測した日本列島の雲の分布(観測時刻:2025年8月10日14時)。
赤線は、はくりゅう通過軌道、橙線は、はくりゅうに搭載されている多波長イメージャ(MSI)観測範囲。
カラーマップはMSIデータから推定した雲の厚さ(雲光学的厚さ)。背景は気象衛星ひまわり9号のRGB合成画像。

■3センサ複合プロダクトによる雲の内部構造

線状降水帯による大雨には、個々の積乱雲の発生タイミングを事前に予測するのが難しいという課題があります。そのため、「どのくらいの期間、激しい雨が続くのか」を見通すことが難しくなります(参考:気象庁ホームページ)。雨が地上に降るまでには、上空で雲粒が生成され、成長し、やがて雨粒になるというプロセスがあります。このとき、雲粒の大きさや雲の中の上昇気流の強さは、雲粒の成長に密接に関わる重要な情報です。

図4は、「はくりゅう」が大阪付近で捉えた雲を3次元的に表したものです。高さ方向には、「3センサ複合プロダクト」による雲粒の大きさ(雲有効粒径)と雲降水粒子の落下速度を示しています。これらの鉛直方向の情報は主にCPRとATLIDの観測データに基づいており、雲を縦(鉛直)と軌道方向に切った2次元断面図としてとらえています。一方、図の平面(水平2次元)に示しているのは、「MSI単体雲プロダクト」の雲の厚さ(光学的厚さ)です(図3と同じMSI観測データ)。CPRは、宇宙から雲の中のドップラー速度を観測できる世界初の観測センサで、雲内の粒子や空気が上昇・下降する速度を捉えることができます。また、CPRは、レーダ信号の返りの強さを示す「後方散乱強度」も同時に観測し、これらを組み合わせることで、雲粒や雨粒の動きや、周囲の大気流れをより詳しくしることができます。図4では、雲粒の大きさは、雲の上層で小さく(青色)、下層ほど大きい(赤色)特徴があり、雲粒が上から下に向けて成長し、雨へと変わっていく様子が確認できます。また、矢印に注目すると、雲の下層では粒子が大きく下降(下向きの矢印)しており、降水粒子として落下していることがわかります。このように、雲の内部構造を捉える観測は、雲粒がどのように雨に成長するかというメカニズムの理解を深め、線状降水帯や台風などの豪雨予測の精度向上に貢献します。

図4:大阪付近に広がる降雨をもたらす雲の3次元図(観測時刻:2025年8月10日14時)。
高さ方向は「3センサ複合プロダクト」による雲粒の大きさ(色塗り)と雲降水粒子の落下速度(矢印)、
水平方向はMSI単体雲プロダクトの雲の厚さ(雲光学的厚さ)を示す。

■4センサ複合プロダクトによる加熱冷却分布

雲とエアロゾルは、太陽からの光エネルギーや、地球が宇宙へ放出する赤外線エネルギーの伝達に深く関わっており、地球の気候や地表の気温に大きな影響を与えます。しかし、これらが気候に及ぼす影響を正確に定量化するには、まだ大きな不確実性が残っています。
雲は、太陽光や地表からの赤外線により大気を加熱する働きがある一方で、雲自身が赤外線を宇宙に放出するため、大気を冷却する働きもあります(参考:JAXA/EORCホームページ)。地球温暖化が進むと、雲の高さが上昇したり、下層の水雲が薄くなったりする影響で、温暖化をさらに強める効果が生じる可能性があります。一方、氷の雲が融けて水雲が増えると、温暖化を押さえる効果が働くことも指摘されています。このように、雲の放射への影響は非常に複雑で、まだ十分に定量化されていません。そのため、雲は地球温暖化の予測における最大の不確実性要因となっています。この不確実性を減らすためには、雲がどのような高さにあり、どのような大きさの粒で構成され、どれだけ厚いのかといった物理的な特性を詳しく知り、それが大気をどのように加熱・冷却するのかを、科学的に理解することが重要となります。

図5は、雨雲が、大気をどのように加熱・冷却しているのかを示した図です。図5を見ると、雲には大気を加熱する効果(暖色系)と冷やす働き(寒色系)の両方があることがわかります。特に、雨をもたらす雲の上層では青い領域が広がっており、これは雲から赤外線が宇宙へ放出され、上層が強く冷却される(放射冷却)ことを示していると解釈できます。一方、雲の中層では、太陽光による加熱が卓越している様子が確認できます。

図4と図5に示したように、「はくりゅう」ミッションでは、雲粒の大きさといった雲の「微物理特性」に加えて、太陽光・赤外線の伝達を通じてその雲が大気を加熱するのか、冷却するのかをという「放射特性」を、整合的に推定することができます。これらの情報は、「3センサ複合プロダクト」と「4センサ複合プロダクト」として提供され、雲の内部構造と放射影響を総合的に理解するための重要なデータとなります。

図5:本州に広範囲に広がる降雨をもたらす雲の加熱冷却分布(観測時刻:2025年8月10日14時)。
高さ方向は4センサ複合プロダクトによる正味の加熱率(色塗)、水平方向はMSI単体雲プロダクトの雲光学的厚さを示す。

■より精度の高い気候変動予測の実現に向けて

「はくりゅう」のミッションでは、2025年1月に各センサ単体のレベル1プロダクトの提供を開始し、2025年3月には、レベル2プロダクトのうちセンサ単体プロダクト、ならびにCPRとATLIDを組合わせた2センサ複合プロダクトの提供を開始しました。レベル1プロダクトは観測データを工学値変換したもので、レベル2プロダクトはそれをもとに大気の物理学量に変換した科学データです。レベル2プロダクトはさらに、センサごとの情報から作成されるもの(センサ単体プロダクト)と、複数のセンサ情報を統合したもの(センサ複合プロダクト)に分類されます。プロダクトの種類について、詳しくはこちらをご確認ください。

「はくりゅう」の観測データは、JAXA G-Portal及びESAのサイトからどなたでもご利用いただけます。
JAXA地球観測衛星データ提供システムG-Portal(日本語)
ESAのサイト(英語)

気候変動予測では、温暖化によって雲がどのように変化し、それが地球の放射収支や降水の形成にどう影響するのかを定量的に把握することが大きな課題です。観測技術や数値モデルの進歩により理解は進んでいますが、雲の影響は依然として予測の最大の不確実性要因であり、雲が温暖化を加速するか、逆に抑制するかはいまだ十分に解明されていません。2025年12月より全標準プロダクトが公開される「はくりゅう」のデータを活用し、気候モデルの評価・改良を進めることで、より精度の高い気候変動予測の実現と、その結果を踏まえた適応策の検討に貢献していきます。

参考ウェブサイト
「雲とエアロゾルを知る」(JAXA/EORCホームページ)
「地球温暖化と雲・エアロゾル」(JAXA/EORCホームページ)
「JAXA線状降水帯集中観測モニタ」

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