お知らせ
2023.12.04(月)
JAXAが日本の機関として初めて国際GNSS事業の解析センターに認定されました
GNSS※1は衛星の軌道情報をもとにして地上の位置決定、すなわち測位を行うシステムです。GNSSはカーナビやスマートフォンでの地図アプリ等で広く利用されているほか、地殻変動が激しい日本では、位置の基準の維持・管理にも活用されています。このような精度の高い測位を行うためには、GNSS衛星の正確な軌道情報(精密暦:せいみつれき)※2が必要不可欠です。この精密暦のなかで、実質的な国際標準として広く活用され、世界で最も高い精度を有するものが、International GNSS Service(国際GNSS事業)※3が提供する精密暦です。この精密暦は、国際GNSS事業に所属する各国の解析センターが算出した精密暦を統合処理することにより算出されています。
このたび、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国土地理院は、2023年12月1日に、国際GNSS事業の解析センターに、日本の機関として初めて認定されました。今回の認定により、新たに日本の精密暦が、国際GNSS事業の統合処理に加えられることになりました。これまでJAXAでは、国産のGNSS軌道計算ソフトウェアであるMADOCA※4を開発し、精密暦の精度改善に関する技術開発を長年行ってきました。今般、国土地理院がMADOCAを用いて精密暦を算出し、JAXAがその運用結果に基づきMADOCAを改良するという協力体制を構築することで、解析センターへの参画が実現しました。これは、日本が世界最先端の技術力を有していることの証であり、衛星測位の分野において日本が国際的に重要な貢献をする立場になったことを意味しています。
今後、解析センターとしてこの精密暦の生成に継続して参画することで、高精度測位に必要となる基盤の整備に大きく貢献していくことになります。また、JAXAでは、日本の測位衛星である準天頂衛星の精密暦の改善も進めており*5、解析センターとして、これらの成果を広く社会に還元するための活動にも取り組んでいきます。
(本件につきまして、2023年12月4日付プレスリリースをご覧ください)
JAXA第一宇宙技術部門 寺田部門長のメッセージ
JAXAでは、準天頂衛星初号機「みちびき」を開発し、2010年9月にその打ち上げに成功し、衛星測位システムを有する国々(衛星測位サービスプロバイダー国;米国、欧州、ロシア、中国、インド)の仲間入りを果たしました。衛星測位システムを有することは、宇宙先進国の証といえます。
そして、このたび、JAXAと国土地理院と連携協力により、JAXA・国土地理院がInternational GNSS Service(国際GNSS事業)の「解析センター」に、日本の機関として初めて承認されました。
これは、これまで解析センターを有する7か国(米国、中国、フランス、ドイツ、スイス、カナダ、チェコ)に、我が国が新たに仲間入りを果たしたことになり、優れた衛星測位技術を有する国の証となりました。
しかし、解析センターの仲間で居続けるためには、日々向上している他国の解析センターと同等以上の性能を維持・向上させる不断の努力を欠かすことはできず、これはさらにハードルの高い挑戦であるとも思っています。
今後も、我が国が信頼性の高い衛星測位によるサービスを自立的・安定的に享受できる環境の構築に貢献してまいりたいと思います。
JAXA第一宇宙技術部門 小暮衛星測位技術統括のメッセージ
GPSを始めとする衛星測位技術は、皆さんが気が付かないところで私たちの日常に広く、深く関わっています。カーナビやスマホの経路案内や周辺の施設、観光地案内だけではなく、通信、電力などのインフラの時刻・周波数同期や、自然災害監視や被害低減のための地殻変動監視や大気中の水蒸気量監視などなど・・これらの技術の基盤となる技術が衛星の軌道と搭載原子時計の進み遅れを精密に推定する技術です。
今回、JAXAは国土地理院と連携協力の下、国際GNSS事業(IGS)の解析センターとして承認されました。サッカーの世界で例えるなら、“ついに日の丸を背負った日本代表がワールドカップ8強入りを果たした”、いやそれ以上の一大成果だと思います。
IGSの解析センターは互いに切磋琢磨しながら、それぞれの解析ソフトを用いたGNSSの軌道クロック推定の精度向上に取り組み、世界のサイエンスコミュニティに貢献しています。JAXAも国土地理院と共に、世界への貢献と、準天頂衛星システムのIGSプロダクト編入を目指して今後も努力していきたいと思います。
※1:「GNSS(Global Navigation Satellite System)」とは衛星測位システムの総称で、人工衛星を用いて、地上の位置決定(測位)を行うシステムです。アメリカのGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、EUのGalileoなどがあります。
※2:「精密暦」は、世界中に設置したGNSSの電波観測点(GNSS受信機)で取得した衛星からの測位信号を用いて算出された、GNSS衛星の正確な軌道情報です。
※3:国際GNSS事業(IGS: International GNSS Service)
測地学・地球物理学等の研究活動の支援及び社会一般でのGNSSの利用促進を目的として、国際測地学協会(IAG)の下で参加機関の国際協力により運営されている国際組織です。JAXAは観測データの提供を通じ、これまでもIGSに貢献してきました。
※4:複数GNSS対応高精度軌道時刻推定ツール(MADOCA: Multi-GNSS Advanced Demonstration tool for Orbit and Clock Analysis)は、GNSSの正確な軌道情報(精密暦)や衛星時刻、GNSS観測点の座標値等を計算するためのソフトウェアです。
参考文献
Kawate, K. et al., MADOCA: Japanese precise orbit and clock determination tool for GNSS, Advances in Space Research, Volume 71, Issue 10, 2023, Pages 3927-3950, https://doi.org/10.1016/j.asr.2023.01.060
※5:JAXA・東京大学・三菱電機共同研究「将来型衛星測位システムの高精度軌道推定技術の研究」成果利用による準天頂衛星の精密軌道暦を2月28日に公開~より高精度な科学研究や測量等に利用される精密測位へ貢献~
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