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2026.01.09(金)

EarthCARE衛星「はくりゅう」の軌道上での
安定した観測に向けた取り組み

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、欧州宇宙機関(ESA)と共同で雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星(愛称:はくりゅう)を開発し、2024年5月29日(日本時間)に打上げました。2025年12月1日からは、雲・大気中の微粒子(エアロゾル)・放射の仕組みに関する「はくりゅう」の全標準プロダクトの一般提供を開始していますが、日々JAXAが取り組んでいる軌道上での安定した観測に向けた取り組みについてご紹介します。

はくりゅうには、JAXAと情報通信研究機構(NICT)が開発した雲プロファイリングレーダ(CPR: Cloud Profiling Radar)が搭載されており、レーダ電波を地球に向かって送信し、跳ね返ってくる電波を受信することにより、地球全体の雲の構造を詳細に解析することが可能です。また、世界で初めて宇宙から雲の上下の動きを測定することも可能です。雲が気候システムに与える効果は、雲の高さや重なり方、雲の種類などにより大きく影響されるため、CPRにより雲の高さ方向の情報を雲の上下の動きも含めて世界規模で計測することで、雲が気候変動に与える影響の解明に貢献します。

図1:はくりゅう搭載CPRの観測イメージ

CPRを構成する主要機器である高出力送信機(HPT: High Power Transmitter)は、W帯(94GHz)のレーダパルスを増幅してアンテナに送信する役割を担っていますが、HPTを構成するクライストロンの特性から、これまで短期間の観測中断を生じてしまうことが度々ありました。 1度の観測中断期間は平均して約20時間程度となっていましたが、CPRに搭載されているソフトウェアを更新することで、平均して約20分程度の観測中断期間となるように、大幅に改善することができました。

HPTを構成するクライストロンは、真空管の中に大電流の送信ビームを形成することから、設計上、真空管内の原子の状態に応じて筐体へボディ過電流が流れることがあり、HPTはボディ過電流を検知するとレーダ放射を一時中断し、自身で再起動を試みるオートリスタート機能が働きます。通常であれば本オートリスタート機能により数分以内にレーダ放射を再開しますが、稀にボディ過電流が短時間に連続して生じるとHPTの電源がOFFとなり、CPRとしては安全なセーフティモードへ移行します。
一度セーフティモードへ移行すると、通常の観測モードに戻す前に、地上の運用者による状況確認やコマンド操作が必要となることから、最低でも約1日の観測中断を生じてしまうこととなり、運用者が休日の週末にあたってしまうとコマンド操作が実行できないため、長い場合には約3日の観測中断となってしまう場合もありました。

図2:観測中断の発生場所(2024年6月~2025年5月)

この問題に対応するため、JAXAは2025年6月にCPRに搭載されているソフトウェアを更新することで、新たにソフトウェアオートリスタート機能をCPRに実装しました。
本機能により、HPT自身が有するハードウェアのオートリスタート機能が上手く動作せずにCPRがセーフティモードへ移行してしまうケースとなった場合に、ソフトウェアでも再起動を試みることができるようになり、地上の運用者によるコマンド操作を必要とすることなく、CPR自身で通常の観測モードに戻ることができるようになりました。結果、観測中断期間は平均して20分程度となり、大幅な改善が得られました。

また、HPTボディ過電流の発生は、太陽活動の影響を受けることもあり、活発な太陽活動に伴い高エネルギーの陽子がHPTのクライストロン内部に侵入することで、ボディ過電流を引き起こす可能性もあることが分かっています。 図3は観測中断の発生タイミングと高エネルギー陽子の関係を示していますが、太陽活動が特に活発であった2024年9月~10月の内、9月21日、10月11日、10月26日の観測中断は、図2に示す発生場所が放射線環境の影響を受けやすい極域や南大西洋異常帯(SAA: South Atlantic Anomaly)付近であることからも、太陽活動の影響である可能性が高いと考えられています。

図3:観測中断の発生タイミングと高エネルギー陽子の関係

2025年6月のソフトウェアオートリスタート機能実装後は、長時間の観測中断は発生しておらず、CPRは安定した観測を継続中です。衛星搭載ソフトウェアに柔軟性を持つことは、単なる便利さのみでは無く、軌道上での安定した観測にも役立っています。 JAXAは日々、軌道上での安定した観測と高品質のデータ提供に努めてまいります。

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