お知らせ

2025.08.21(木)

台風シーズンに活躍する衛星データ

『JAXA地球観測データ利用30年』特集の第5弾では、大雨・台風など気象観測で活躍する人工衛星についてご紹介します。『JAXA地球観測データ利用30年』の第3弾で紹介した「AMSRシリーズ」も輝度温度、海面水温、海上風速、海氷密接度、土壌水分量、積雪深等のデータを利用して数値気象予報の予報精度の向上や、現況の監視・解析等に使用されていますが、その他のJAXAの人工衛星が観測した衛星データも気象予測の精度向上や防災情報の提供が行われています。

17年以上降水分野の研究に貢献した「TRMM」

1997年11月28日、打ち上がった熱帯降雨観測衛星「TRMM」は日米共同プロジェクトとして、米航空宇宙局(NASA)が開発した衛星に日本が開発した世界初の衛星搭載降雨レーダ(PR)が搭載されており、2015年の運用終了まで17年以上も観測を継続したことによって降水分野の研究に貢献しました。

図1 :「TRMM」の降雨レーダ(PR)で観測した1997年12月19日の台風28号

図1は「TRMM」降雨レーダ(PR)で観測した1997年12月19日の台風28号です。上の画像は高度2kmの降雨の水平断面と水平断面と気象衛星ひまわりの雲画像(赤外)を重ねたもので、下の画像は上の画像の線ABに沿って切った降雨の台風の立体構造と鉛直断面を示したものです。
ほぼ同心円状をしている雲に対して、雨が降っているのは東側で、強い雨が降っている赤い領域が台風の目の周りにあることから強い雨が降っていることがわかります。

図1は気象衛星ひまわりの雲画像と重ねる等の加工を行っている画像ですが、この元となっているデータは「JAXA/EORC台風データベース」に登録されています。
「JAXA/EORC台風データベース」には1997年以降、「TRMM」、「TRMM」の後継機の全球降水観測計画「GPM主衛星」水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)等によって観測された世界中の台風(台風、ハリケーン、サイクロン等の熱帯低気圧全般)のデータを公開しているサイトで、各地域で発生した台風の期間や経路、および通過地点ごとでの最大風速などが一目で分かるようになっています。「TRMM」が打上げ10日後の1997年12月8日に観測した台風28号の観測データが一番古いデータとなります。

世界中の降雨状況を1時間毎に提供

「TRMM」の後継機の「GPM主衛星」も「TRMM」同様長期間運用されている衛星で、2014年2月28日に打上げられ、11年目に入り現在も現役で活躍しています。

「GPM主衛星」はNASAが開発した衛星本体に、日本が開発を担当した観測装置の二周波降水レーダ(DPR)とNASAが開発した観測装置のGPMマイクロ波放射計(GMI)が搭載されています。「TRMM」では熱帯地域の降雨観測に特化していましたが、「GPM主衛星」では軌道傾斜角を65度とすることで、高緯度域まで観測できるようになったと共に、観測を二周波にすることで、弱い雨や雪の検出もできるようになり、中高緯度域の降水(降雨・降雪)を高精度に観測できるようになりました。

図2:(左)「TRMM」と(右)「GPM主衛星」の観測範囲の違い

この「GPM主衛星」と、マイクロ波放射計を搭載した世界各国の衛星群によって、日米を中心にした国際協力の下で進められている全球降水観測計画(GPM計画)という全球の降水の、高精度・高頻度観測を目的にする国際協力ミッションが立ち上げられ、その成果として「GPM主衛星」による情報を基準にJAXAが開発した衛星全球降水マップ(GSMaP)が公開されており、世界中の降水を、ウェブサイトでリアルタイム(1時間毎更新)に見ることができます。

図3:衛星全球降水マップ(GSMaP)の全球スケールの雨と雲の画像(2025年7月31日)
日本列島の近くに台風9号の雨雲が見えている

「GSMaP」はリアルタイムに情報を届けることを重視して作られ、実際に衛星データの実利用の進展で大きな成果を得ています。アジア地域を中心とした海外(2025年6月末現在162ヶ国)で使われており、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどでは、気象予報の参考データとして活用されています。また、子供も大人も楽しめるコンテンツとして「ほぼ日のアースボール」の「リアルタイム雨マップ」で採用され、拡張現実(AR)による地球儀上のリアルタイムな雨情報の表示にも利用されています。

図4:世界の雨分布統計(GSMaP_CLM)での2024年9月21~23日の豪雨指標

また、長年観測を続けているからこそ提供できるデータの一つがGSMaPから作られる世界の雨分布統計(GSMaP_CLM)です。GSMaP_CLMでは豪雨指標というデータが提供されていますが、これは「TRMM」が観測してきたデータも含め、過去の観測データの雨量の上位10%に相当する強い雨が降ったところにピンク色の色付けがされるもので、色が濃い領域ほど、より激しい豪雨であった事が分かります。図4は令和6年9月能登半島豪雨の際の豪雨指標ですが、能登半島全体が、上位1%にあたる濃いピンク色で塗りつぶされており、今までにない激しい雨が降ったことを示しています。

“これから”を予測する!

JAXAは現在のリアルタイムな情報の提供だけでなく、地球全体の大気の状態を高解像度で再現・予測も行っています。NEXRAは、JAXAのスーパーコンピュータ(JAXA Supercomputer System:JSS)を用いて、地球大気の“今”と“これから”を高精度に再現・予測するためのシステムです。天気予報とは異なり、「GSMaP」や世界中の衛星観測データを取り込み、大気の状態を6時間ごとに更新しながら、未来の天気を5日先まで細かくシミュレートするシステムです。2024年7月に最新版「NEXRA3」が公開され、台風の強さや構造、降水域の再現性が優れていることが確認されました。
NEXRAは雲粒や降水粒子を予測するモデル構造により、衛星レーダ観測の同化にも対応可能となっています。

台風の中まで観測する「はくりゅう」

図5:(左)気象衛星ひまわり9号の雲画像にはくりゅうの軌道(赤線)とMSI観測幅(オレンジ色)を重ねた図。(c) JAXA/JMA
(右)はくりゅう雲シナジー初画像:日本列島に接近中の令和6年台風第10号の観測結果。
観測時刻:2024年8月28日 2時(日本標準時)。
高さ分布で、赤色系の色塗は雨や雲水、青色系色塗は雪や雲氷の高さ分布を示す。 (c) JAXA/ESA

雲エアロゾル放射ミッション「はくりゅう」(EarthCARE)は台風のような厚い雲の内部までも捉えることができる雲プロファイリングレーダ(CPR)が搭載され、世界で初めて、宇宙から雲の上下の動きを測定しています。最先端技術による台風の観測結果であるため、これらの観測データの利用も期待されています。

<関連サイト>
宇宙から天気をもっと正確に!ー「世界の気象リアルタイムNEXRA3」がリニューアル、新旧システムの性能比較(論文解説)

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