人工衛星の打上げ/軌道投入

人工衛星はロケットで宇宙へ打ち上げられます。宇宙に打ち上げられた人工衛星が、設計したとおり正しく動くことを地上との通信で確認できたら、宇宙でのお仕事がいよいよ始まります。

 

いよいよ宇宙にお仕事をしに出発だ!・・・ドキドキ。

ロケット打上げと衛星分離

 ロケットが打ち上がる場面はテレビのニュースなどでもよく放送されますが、この時、人工衛星はどこにいるのでしょうか。人工衛星はロケットの先端、「フェアリング」と呼ばれる部分の中に入った状態で宇宙へ打ち上げられます。フェアリングの役目は、例えるならば卵の中身を守る“殻”。打上げの際の大きな音や振動、熱から人工衛星を守ります。
 人工衛星が地球に落ちないで地球の周りを回っていることのできる速度を「第一宇宙速度」と呼びます。この速度は、およそ秒速7.9km、時速にすると28,000kmにもなります。 これはピストルから発射される弾丸(音速(秒速340m)を超える速度)よりも速いスピードで、約90分で地球を一周してしまいます。ロケットが第一宇宙速度に到達すると、人工衛星がロケットから切り離されます。これを「衛星分離」と呼びます。衛星分離をすると、「クリティカルフェーズ」と呼ばれる、衛星が仕事を始める前の重要な準備作業が始まり、「追跡管制隊」と呼ばれる衛星のエキスパートたちの出番になります。

太陽電池で自給自足

 人工衛星はロケットの中に入っているうちから、自身に搭載されたバッテリによって電源が入った状態になっています。したがって、ロケットが打ち上がってからも、ロケットが打ち上げられた射場に近い地上の通信局へ、自身の状態を電波で知らせ続けることができます。

地上のみんな、こちら人工衛星。
ロケットに載って飛行中。現在異常ありません!

ただし、ものの数分で地上のアンテナからは届かないところまで飛んで離れていってしまいます。

どうしよう!地上のみんながあんなに遠くに。
これじゃあ連絡が取れなくなっちゃう・・・?

 バッテリは充電しないでいると電気がなくなってしまうので、充電する必要があります。人工衛星はたくさんの電気を必要とするので、太陽電池がたくさん貼られた太陽電池パドルを使って発電します。太陽光が当たるだけで電気をつくれる太陽電池は、宇宙空間を飛ぶ人工衛星にたいへん適しています。
 衛星はロケットの先端、フェアリングの中に収める必要があるため、大きさに制限があります。そのため、いろんな部品が小さく折りたためるようになっています。太陽電池パドルは、広げると何メートルにもなる大きなものですが、フェアリングに収まるように小さく折りたたんでロケットに搭載されます。

 人工衛星がロケットから切り離された後、まずは電力を確保するために太陽電池パドルを広げ、太陽電池を使って、人工衛星自身で発電ができるようになると、ひとまず一安心です。

僕はロケットに載るために小さく折りたたんでいた太陽電池パドルを広げ、電力を自給自足するんだ。
あ~、のびのび~電気の力がみなぎるよ!

中央管制室の様子
追跡管制棟内の中心設備です。特にクリティカルフェーズには、ここに集まる多くの関係者にタイムリーな情報を提供します。世界各地の大型アンテナ(パラボラアンテナ)を有する「地上局」を、追跡中央管制室から24時間、365日遠隔で監視し、制御をしています。

姿勢制御

しかし、人工衛星が自分で発電できるようになったからといっても、まだまだ気は抜けません。その後も、人工衛星がふらふらしないように、「3軸姿勢確立」といって、人工衛星が自分の力で姿勢を一定のまま保てるようにします。姿勢が安定するようになると、人工衛星のミッションに必要な装置を太陽電池パドルと同様に広げていきます。基本的にこうした展開の仕組みは、バネの力を利用しています。バネを縮めた状態で折りたたんでいたものを、バネが伸びて広がらないように止めているネジや丈夫な紐を爆管により(火工品と呼んでいます)焼き切ることで、バネを元の形に戻し、展開します。

背筋を伸ばして、ぴしっと姿勢を正しくするよ!
僕の姿勢を正しくするために、みんなの生活に身近なものが宇宙でも使われているんだ。

 3軸姿勢確立では「スラスタ」といって、いろんな方向を向いた小さなロケットエンジンを使って人工衛星の姿勢を安定させますが、人工衛星が部品を展開し終えると、回転しているホイールの回転数を変えることで姿勢を保つように、姿勢制御の方法が変わります。
 こうしてプロジェクトメンバーの緊張が高まる「クリティカルフェーズ」がようやく終わります。クリティカルフェーズは衛星によって異なりますが、2、3日から1週間までとさまざまです。

軌道投入

僕の姿勢が安定したら、いよいよミッション達成のために予定された地球をまわる道「軌道」というところを飛ぶよ。

 クリティカルフェーズが終わると、「初期運用フェーズ」と呼ばれる次の段階に進みます。初期運用フェーズでは、まず、人工衛星を予定通りの軌道を飛ぶように、エンジンを噴射して軌道を少しずつ修正していく「初期軌道制御」が行われます。地球観測衛星は、地上からの高度400㎞~1000㎞のミッション遂行のために最適な軌道にのるように人工衛星をスラスタ(小さなロケットエンジン)を使って移動します。
 その後、人工衛星に搭載されたすべての機器が宇宙空間でも正常に動作するのか、ひとつひとつ性能をチェックしていきます。

宇宙での動作確認を経て

 人工衛星にはミッションを達成するための観測機器、データの記録機器や通信機器、姿勢を保つための制御機器など、たくさんの機器が搭載されています。また、それらは大抵の場合、万が一の故障に備え、ひとつではなく複数載っています。そのため、初期運用フェーズの期間(通常だとおよそ3ヶ月)に、宇宙で人工衛星が異常なく動くことができているかを時間をかけて検査していきます。
 初期運用フェーズの最後には「システム総合試験」といって、人工衛星の観測を予定通り行うことができるのか、観測に関わる地上と人工衛星のシステムをすべて通して動作させて性能を確認します。 これが成功すれば定常フェーズに行っても良いと判断されて、例えて言えば人工衛星が一人前の仕事ができるようになったと認められることを意味しています。

 

すべての点検が完了!
さあ、みんなのために一生懸命働くよ!

◆“人工衛星の誕生”に関わる人々
追跡管制隊が活躍するのは、初期運用フェーズまでです。その後、隊は解散し、追跡管制については、基本的にはそれぞれの人工衛星の運用担当が中心となって、定常的に行っていきます。

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