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「みちびく人々」『宇宙兄弟』作者 漫画家 小山宙哉

幼いころに「宇宙飛行士になろう」と誓い合い、先にその夢をかなえた弟:日々人(ひびと)の背中をフリーターの兄:六太(むった)が追いかけるという物語を、綿密な取材をもとに現実味たっぷりに描いた『宇宙兄弟』(講談社)。JAXAも舞台となっているこの大人気マンガの生みの親である小山宙哉さん、連載中のモーニング編集部の方に、準天頂衛星初号機「みちびき」のこ と、宇宙のことなどを幅広くきいてみました。

Section 1『SLAM DUNK(スラムダンク)』に導かれて

―― JAXAも舞台となっている大人気マンガ『宇宙兄弟』の小山さんにインタビ ューができ、非常に光栄です。さて、早速ですがGPSを補完・補強する準天頂衛 星初号機「みちびき」は、カーナビやケータイなどを介して人を行きたい場所 に“導く”役割があります。ちなみに、小山さんが漫画家の世界に導かれたきっかけは?

小山宙哉さん(以降、小山):元々漫画を読むことも描くことも好きだったのですが、井上雄彦さんの『SLAM DUNK』を読んでからさらに漫画の魅力に気づくようになりました。『SLAM DUNK』には非常に影響を受け、 自分でも漫画を描いて持ち込んだりするようになって、次第に漫画家を意識するようになりました。井上雄彦さんに導かれて漫画家になったと言えるかもしれません。

―― 小山さんは普段、カーナビやケータイを介したGPS機能を使っていますか?

小山:ケータイのGPS機能は使ったことはないですが、カーナビは使います。1週間のほとんどを仕事場で過ごすような毎日なので、なかなか道を覚えません。なので、たまに運転する時は、かなりカーナビに頼っています。

―― 従来のGPSは、山や都市の高層ビルなどが障害となり信号が届かずに精度が落ちることもありました。しかし、「みちびき」をはじめとする準天頂衛星 システムから信号を受信することでより精度が増し、山間や高層ビル街でも正確な位置情報を把握できるようになります。また、信号はアジアやオセアニア地域にも提供されます。

小山:僕は日本の技術は世界でも最先端なのではないかと勝手に思い込んでいます(笑)。日本車は乗り心地がいいと思いますし。ISSのきぼうモジュール(※1)も外国人飛行士に評判がいいと伺ってます。世界の最先端技術は、軍事目的で開発されたものの転用が多いとよく聞きますけど、日本の技術がそうじゃないのは立派だと思います。「みちびき」も日本が世界に貢献できる平和利用の衛星。立派です。

※1 国際宇宙ステーション(ISS):国際宇宙ステーションは、地上から約400km上空に建設される巨大な有人実験施設です。1周約90分というスピードで地球の周りを回りながら、実験・研究、地球や天体の観測などを行っています。

―― そのほかに日本の宇宙事業で関心のあるものは?金星探査機「あかつき」が金星に順調に向かうなど、日本独自の大型プロジェクトも進行中です。

小山:「行け!あかつき」っていうメッセージと『宇宙兄弟』の絵を描きまして、それをデータで「あかつき(※2)」に載せてもらってるんですよ。その「あかつき」が金星に到達して送ってくる画像に非常に興味があります。「かぐや(※3)」が撮った地球や月の画像もとてもよかったです。これからもっと色々な惑星のリアルな画像や映像を見てみたいです。ハイビジョンで。もっと遠くまで探査機が行って、未知の星の映像が見れるとワクワクしそうですね。

※2 「あかつき」(PLANET-C):あかつきは、日本による惑星探査計画で、金星の大気の謎を解明することが目的の金星探査機。

※3 「かぐや」:かぐやは、月の起源と進化の解明のための科学データを取得することと、月周回軌道への投入や軌道姿勢制御技術の実証を行うことを目的とした、月探査機。

Section 2宇宙飛行士の日常を描くために

―― 導かれて、漫画家になられた小山さん。今まで『ハルジャン』でスキージャンプの話、『ジジジイ(GGG)』で泥棒の話を描いてきました。今回宇宙の話 を描いたきっかけは?

小山:絵的にかっこいいものや、人が宙に浮いている瞬間を描くのがなんとなく好きで、『ハルジャン』も『ジジジイ(GGG)』も空を飛ぶ描写が多かったんです。その辺に気付いていた担当の編集者から、「宙に浮いてるイメージと宇宙船や宇宙服などの魅力的な絵を描ける、宇宙飛行士モノはどうか」と提案されました。そのときに向井万起男さん(宇宙飛行士・向井千秋さんの夫)が書かれた『君につい て行こう―女房は宇宙をめざした』(講談社)というエッセイ本を手渡されたんです。読んでみると非常に面白かったので、宇宙を題材にやってみようと思いました。

―― どのあたりが面白く、魅力を感じられたのでしょうか。

小山:連載前は、僕は宇宙についてそれほど詳しくなく、 「かっこいい」とか「ハイテク」という一般的なイメージを持っていました。でもエッセイ本には宇宙に携わる人たちの日常的な部分や苦労していること、不便に感じていることなど、今まで思いもよらなかったことが書かれていて、それがすごく興味 深かった。そういう一般的に知られてない部分を、さらに取材して面白く描けたらいいなと思ったのもきっかけとなりましたね。

―― JAXAやNASAにも直接取材に行かれていますよね。

小山:はい。JAXAでは、宇宙飛行士選抜試験養成に使われる閉鎖環境適応訓練設備を見学したり、職員の方にお話を聞いたり。インタビューすると、みんな宇宙を好きなのが伝わってきました。今は、連載中だから、急な質問をすることが多いんですが、それにもすぐに対応してくださるので、とても感謝しています。JAXAの方々は見た目は一般の人たちと変わらない印象を受けました。でも、宇宙事業や技術に詳しい方にインタビューすると、やっぱりスゴイ人たちだなと。とにかく知識の量が半端ではなく、インタビュー相手の方も宇宙飛行士になれるのでは、と思えるくらい聡明で知的レベルの高さを感じました。

―― 宇宙飛行士への取材はされましたか?

小山:野口聡一さんと星出彰彦さん、スタンリー・ラブさんにインタビューをしました。皆さんに共通することなのですが、質問に対して的確に言いよどむことなく答えられていて、頭脳明晰でさすがだなと思いましたね。あと、皆さん目がキラキラしてました。

―― 施設についての印象は?

小山:とにかくすごく広いですよね。広すぎて、働いている人たちは苦労されてるんじゃないかと想像します。例えば食事。食堂は広い敷地内に1箇所しかありませんもんね。

―― 確かにそうですね。しかも有人施設から遠い、入口ゲート付近にあります。そのほかにコンビニもあります。このコンビニの店長は髪型に特徴があって、髪を刈って数字や文字を頭に描いているんですよ。先日は娘さんの結婚式があるということで、「寿」と描かれていました(笑)

小山:その方は覚えてますよ!(笑)すごい髪型をしているなと。いつか 『宇宙兄弟』でも登場させるかもと思って、写真を撮影しておきました。

―― NASAへの取材はいかがでしたか?

モーニング編集部:2回取材に行っているのですが、初回は一般観光客が行けるのと同じ範囲を取材しました。一方、最近行った2回目では、前回よりもずっと充実した取材ができました。実は、ヒューストン滞在のJAXAの方が一肌脱いでくれました。「『宇宙兄弟』はリアリティにこだわった漫画だから、NASAの報道対応の窓口で応じてほしい」とNASA側に掛け合ってくれたのです。

小山:無重力訓練用のプール、航空機T38の飛行場など、簡単には入れそうもない施設に入って、いろんな写真を撮りました。

Section 3子どもの夢や憧れをかなえる宇宙事業

―― ところで、『宇宙兄弟』の第3巻には、「辛口コメントが特徴の塩川キャスター」というキャラクターが登場しますね。宇宙事業への批判をテレビ番組でしたのですが、それに対し宇宙飛行士候補者の選抜試験を受けている人たちが、ミッションの1つとして抗議文を送るという場面がありました。

小山:宇宙開発に批判的な意見を持つ人は、世の中にいると思います。実際に、星出さんのフライトのときにラジオを聞いていたら、女性ナビゲーターの方が「これだけの国の予算を使ってどういった成果があるのか?」と、疑問を投げかけていました。どちらの意見が正しいかは、わかりません。でも六太(『宇宙兄弟』の主人公)だったら、どんな風に答えるんだろうって考えて、作品にしました。

―― これは今の現実と非常にリンクしている話ですね。

モーニング編集部:宇宙開発の歴史は、常に費用対効果が問題になって、ここまで進んできています。官でやるべきか、民でやるべきかの議論もある。選抜試験に落ちた福田さん(作中のキャラクター。選抜試験に参加。)が、民間の宇宙開発の会社に行ったのを描いているので、今後は民の側も描かれるかもしれませんよ。

―― 小山さんはどのようなご意見をお持ちですか?

小山:僕はもちろん宇宙事業を応援する立場ですよ。中でも「宇宙飛行士」は宇宙好きの子どもたちにとっても、分かりやすい憧れの対象です。次に宇宙事業を目指していく人が育つためにも、宇宙飛行士が活躍していることは大事じゃないかと思います。

―― 『宇宙兄弟』によっても、宇宙への憧れを膨らませたり、宇宙飛行士になることを夢見る人は多くなっているのでは?“宇宙ブーム”の兆しを感じます。

モーニング編集部:実際に、そういったムーブメントができればいいなと思って、宣伝しています。

小山:読者からくる手紙に、「JAXAに入社します」とか、「将来は宇宙飛行士になります!」と、宣言している方がたくさんいますよ。空を見上げるようになったっていう感想も、子どもから年配の方までたくさんいただいてます。

―― 小山さんが夢中で読んだ『SLAM DUNK』で、当時バスケットボールを始める子どもたちが増えたのと似たような現象ですね。

小山:『宇宙兄弟』にそれだけの影響力があれば僕もうれしいです。世の中にはバスケットを好きになる子どもたちの数と同じくらい、宇宙が好きで宇宙飛行士や宇宙関係の方面に才能を発揮させる子どもたちはいると思います。その人たちが将来「『宇宙兄弟』を読んだことがきっかけで…」ってなことになれば素晴らしいですね。

―― 『宇宙兄弟』は確実にその機会となっていますよ。これだけの人気漫画に取り上げていただいたおかげでJAXAという名称も浸透しています。実は、JAXAの職員の中にも『宇宙兄弟』の愛読者が多いんです。コミックを購入して職場のデスクに置いてたり(笑)。

Last Section宇宙の中でその一瞬を懸命に生きる

―― 漫画では、JAXAをメインの舞台として取り上げていただいていますが、今後「みちびき」も登場するといった展開は?唐突な話ですが……。

小山:宇宙でもGPSは関係あるのでしょうか?

―― GPSはISS(国際宇宙ステーション)にも使われています。GPSでは地球上での自分のいる位置がわかりますが、宇宙でのISSの正確な位置情報も知ることができます。その情報はスペースシャトルや日本が送り出したHTV(宇宙ステーション補給機)がドッキングする際に活用されています。「みちびき」をはじめとする準天頂衛星システムを使えば、ISSが日本上空付近にいるときには、その位置情報の信号を利用することができるようになります。

小山:ちょっと先の話になりますが、今後、ISSのことをもっと描こうと思っています。その時に、登場するかもしれませんね(笑)。

モーニング編集部:ちなみに月面ローバ(月面車)にはGPSの信号は届きますか?

―― いいえ、残念ながら遠すぎて届きません。「みちびき」の信号は約4万km先まで届くのですが、地球から月までの距離はその10倍くらいありますから……。

―― さて、最後に、小山さんは宇宙兄弟を描いて考え方が変わりましたか? 

小山:宇宙からの地球の写真を見ると、僕たちは宇宙の中に住んでいるんだなってことを………全く実感はしませんね(笑)。いくらあの丸い地球の映像を見ても、あまりピンと来ない。想像はしてみるんですけど、やっぱり空間に地球が浮いているということは不思議でしょうがないです。宇宙の仕組みを深く考えていくと、なんだかよくわからないから、怖くなっちゃいますよね。宇宙は膨張しているとか、いつか無くなるとか、太陽もそのうち無くなるとか。まあ、そのころまでには人類はいなくなってしまうわけですから、関係ないといえば、関係ないんだけど……。考えていると、何だか寂しくなちゃいますよね(笑)。今みんなが必死に頑張っているのは何のためなんだろうなと。でも、すべてのものがそういう運命なのかなと思いますね。人間もいずれ死ぬし、花も咲けば、いずれ枯れる。だから咲いているときに一生懸命やるしかないんですよね。

モーニング編集部:今の一連のセリフ、マンガに使えそうでしたね。

―― すべては死に向かっていくからこそ、その中で一生懸命生きる。

小山:宇宙飛行士の仕事って、やっぱり自分では経験できないことなので、想像が追いつかない感じはあるのですが。それでも実際の宇宙飛行士の気持ちの面は、できるだけ描写したいと思っています。

―― これからも連載を楽しみにしています。有難うございました。

小山宙哉さんプロフィール
1978年京都生まれ。 初めて描きあげてモーニングに持込みをした作品『ジジジイ』が、第14回マンガオープン審査委員賞(わたせせいぞう賞)を受賞。続いて第15回マンガオープンに投稿した『劇団JET'S』が大賞を受賞。現在単行本を絶賛発売中の『ハルジャン』をはじめ、『ジジジイ-GGG-』は、持込みをした作品『ジジジイ』を同じ主人公で新しく描き直した作品である。『宇宙兄弟』は2007年12月、講談社モーニングで連載開始。

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