技術実証実験

概要

SPAISE(スパイス)は、船舶自動識別装置(AIS: Automatic Identification System。以下「AIS」といいます。)を衛星に搭載した実験(衛星搭載船舶自動識別システム実験:SPace based AIS Experiment)の略です。
AISとは船舶の事故防止等を目的として、船名、船種、位置、針路、速度、目的地、積載物等を周辺船舶や陸上局に向けて自動的に送信するシステムであり、SPAISEではこのAIS信号を衛星軌道上で受信することで、全球における船舶の航行情報を得ることができます。 本実験において、衛星搭載船舶自動識別システムの機能性能の確認及び軌道上の混信状況の評価を行うことで、将来システムの構成やAIS信号受信性能向上のための知見を獲得します。

AISとは(海上保安庁ウェブサイト)

日本はこれまで沿岸に設置された陸上局を利用してAIS信号を収集してきました。そのカバーエリアは海岸から20~30海里(37~55km)程度の範囲でしたが、 SPAISEではAIS受信機を衛星に搭載することでより広いエリア(約5,000km)をカバーして、陸上局からは受信できない遠方、広域のAIS信号を受信することが可能です。
これまで、洋上の船舶から送信されたAIS信号を衛星で取得する技術的な実証と、共同研究者とともに利用可能性を検証する研究を行いました。 これらで得た成果を活用し、日本周辺海域でのAIS信号受信性能の向上を図るSPAISE3を開発しています。SPAISE3は2021年度打ち上げ予定の「だいち4号」(ALOS-4)に搭載され、受信性能の向上を検証する予定です。

AIS

人工衛星による洋上の船舶の把握にはレーダ衛星画像とAIS受信情報の組み合わせが有効とされていますが、 これらの同時観測(合成開口レーダとAIS受信機の同一機搭載)は日本の「だいち2号」(ALOS-2)が世界初となりました。

衛星用のAIS受信機(SPAISE1)を搭載した小型実証衛星4型(SDS-4)について

AIS-antenna
AISアンテナ

小型実証衛星4型(SDS-4)

SDS-4はJAXAでの技術実証目的を終了し、スカパーJSAT社に譲渡を行い、AIS受信実験のみは継続しておりましたが、 2021年6月末にAIS受信実験を終了しました。SDS-4は2021年7月1日に停波しました。

AIS受信機を搭載する小型実証衛星4型(SDS-4)についてはこちらから

衛星用のAIS受信機(SPAISE3)を搭載した先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)について

先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)

合成開口レーダ画像観測とAIS観測が同時可能な人工衛星で、だいち2号からさらに観測性能が向上しています。

先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)についてはこちらから

AIS受信機を50kg級の小型実証衛星4型(SDS-4)に搭載されたSPAISE1、および陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)に搭載されたSPAISE2は、宇宙での信号受信実験を行い、 宇宙から船舶の動きを観測します。衛星にAIS受信機を搭載することで、沿岸に設置された陸上局では収集ができなかった外洋海域等のAIS情報を観測することができ、衛星ならではの活躍が期待できます。また、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)に搭載されるSPAISE3は、SPAISE1、2で課題となった船舶過密域での信号受信率向上が期待されます。

小型実証衛星4型(SDS-4)のページ
陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)のページ

ミッション1 洋上の船舶から送信されたAIS信号を衛星で取得する技術実証

SPAISEでは、日本領海・排他的経済水域(EEZ)を中心にAIS信号を受信します。衛星パラメータの変更や船舶数の変化、天候等、様々な環境下におけるデータを取得し、AIS受信機の技術的な検証を実施します。
さらに、SPAISE2では、衛星AIS用CHであるAIS#3,#4の観測およびALOS-2搭載のPALSAR-2との同時観測によるデータ取得を行い、技術的な検証を実施します。

ミッション2 共同研究者と衛星AISデータの利用可能性を検証する研究

SPAISEでは、衛星で取得したAISデータがどのように利用できるかについて、共同研究者とともに評価します。 衛星で取得したAISのデータは、全球での船舶トラッキング(航行状況把握)、海洋環境保全(保護区への侵入船舶等)、海上安全(海難対策等)など多くのアプリケーションの可能性があり、 船舶事業者や海上安全の関係機関を支援するデータとなることが期待されます。

SPAISE
SPAISEミッションの概念図

SPAISEで開発した衛星用のAIS受信機には、AIS信号の衝突を把握でき、ドップラーシフトにも対応できる機能が備わっています。
さらに、SPAISE2では、ITUによって2012年に新たに追加された衛星AIS用CHであるAIS#3,#4を受信する機能が追加され、ALOS-2搭載のPALSAR-2との同時観測が可能になっています。

SPAISEで利用するAIS受信機の技術「ココがスゴイ!」

従来の陸上局よりも広いカバーエリアがスゴイ!

従来の陸上局のカバーエリアは海岸から20~30海里(37~55km)程度の範囲でしたが、SPAISEではAIS受信機を衛星に搭載することでより広いエリアをカバーして、陸上局よりも広い範囲でAIS信号を受信することを目指します。

ただし、その広大なカバーエリアのため、船舶からの信号が衛星の受信機において同時に受信され衝突する可能性があります。この問題を回避するため、SPAISEでは次の対策を取りました。

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ドップラーシフトを考慮した複数台の受信機がスゴイ!

衛星は地上に対して約7000m/sの速度で地球の周りをまわっています。そのため、衛星で受信するAIS信号の周波数にドップラーシフト*1)分が加わります。(図1)
SPAISEでは、小型衛星のダウンリンク能力を考慮し、軌道上でデータ処理を行う手法を持っていますが、衛星に複数台のAIS受信機を搭載し、それぞれの受信機の受信周波数を設定できるようにすることでドップラーシフトに対応しています。 なお、SPAISE2は常時復調前の受信波形を地上にダウンリンクしており、地上処理でドップラーシフトに対応した処理を行っています。

*1) ドップラーシフトとは、電波を発する船舶とその電波を受信する衛星間の距離が時間とともに増大する時には電波の周波数が低く、距離が時間とともに減少する時には周波数が高く受信される現象のこと。

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図1 ドップラーシフト概念図

SPAISE3の「ココがスゴイ!」

8つのアンテナからなる5mの大型アンテナとビーム合成がすごい!

船舶密集エリアでの信号衝突問題の改善のためデジタルビームフォーミングの手法を採用。

8つのアンテナで受信した信号を地上処理にて合成し、指向性の高いビームを生成(デジタルビームフォーミング)することで特定方向以外からの信号の影響を低減し、信号衝突の問題を軽減します。

degital-beam
デジタルビームフォーミングイメージ図

SPAISE1、SPAISE2の開発・運用スケジュール

開発・運用スケジュール(SPAISE1)

2012/5/18 打ち上げ
2012/6/18 定常フェーズに移行打ち上げ
2012/11/17 後期利用フェーズに移行打ち上げ
2019/12/2 SDS-4をスカパーJSAT(株)に譲渡。SPAISE実験はJAXAにより継続。
2021/7/1 SPAISE1終了

開発・運用スケジュール(SPAISE2)

2014/5/24 打ち上げ
2014/8/20 定常運用段階に移行
2015/6/9 後期利用フェーズに移行
2021/4/19 観測時間拡張開始

人工衛星プロジェクト「だいち2号」(ALOS-2)
人工衛星プロジェクト「だいち4号」(ALOS-4)

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