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超低軌道を飛行する
衛星技術の確立をめざして

超低高度衛星技術試験機 「つばめ」(SLATS)
プロジェクトマネージャ佐々木 雅範

画像:超低高度衛星技術試験機(SLATS)

人工衛星が地球から一定の距離を保って周回しているのは、あまり地球に近すぎると、大気抵抗を受けてみるみる高度が下がり、短い期間で落ちてしまうためです。しかし、宇宙開発の最前線において超低軌道は最後に残されたフロンティアであり、それを価値あるものにするのが夢でした。その実現に向けた第一歩が始まります。
SLATSは、試験機としてこの超低軌道に挑み、技術と知見を獲得することで、将来の実利用に向けての礎となります。

超低軌道衛星の実現に向けた技術開発の足掛かりに!

―SLATSとは、どのような人工衛星ですか?

SLATSのミッションをひとことで言えば、従来の人工衛星よりも低高度で運用する衛星技術を確立するための実験です。高度300kmより低い軌道を一般に「超低高度軌道」と呼んでいますが、安定してこの高さで人工衛星を飛ばすことができれば、宇宙技術の現場にさまざまなメリットが生まれ、これまで十分にわかっていなかった地球の超高層大気の気象や地殻構造などもわかるようになります。SLATSに課せられた使命は、超低軌道衛星の実現に向け、必要な技術情報を集めることです。ただし、SLATSのミッションが完了して終わりということではなく、SLATSで得た成果を次代に反映できてはじめて、このミッションの本当の成功となります。つまりSLATSとは、次世代の宇宙開発の出発点ともいえる人工衛星なのです。

画像:SLATS外観図

SLATS外観図

―SLATSが集める情報、確立していく技術とは、どのようなものになるのでしょうか?

画像:イオンエンジンスラスタの外観

イオンエンジンスラスタの外観

超低軌道で安定して人工衛星を飛行させる技術を確立することが1番の目的です。一般に地球を観測する人工衛星は600kmから800kmの軌道を飛んでいることが多いのですが、このミッションでSLATSが実験飛行する高度は268kmから180kmが予定されています。このくらいの高度になると、多くの人工衛星が飛行しているに領域に比べて大気の密度は1000倍くらいの数値になります。それでも地表に比べてかなり希薄ではあるのですが、高速で飛行する人工衛星からすれば、この密度の大気でも抵抗が非常に大きくなって、何もしなければ2ヵ月から数日で地球に落ちて大気で燃え尽きてしまいます。そのためSLATSには燃料の使用効率が良い電気推進機であるイオンエンジンが搭載されていて、必要に応じて噴射を行い、軌道を長期間維持できるようになっています。実際に飛行しながら、これまでにない低い高度を飛行する新たな人工衛星開発に向けてデータを蓄積します。

実は、SLATSが飛行する領域の大気がどのような状態にあるのか、十分にはわかっていません。その高度の大気密度は、これまでの予測とどの程度合っていて、どこが違っているのか、実際にそこを飛ぶことで確認していきます。さまざまな条件の変化から、刻一刻と大気抵抗が変化するかもしれませんし、緯度によって日照や温度が変わってくるため、それに伴って大気密度が変わってくることも予想されます。また、大気成分の違いによっても大気抵抗は違ってきますので、人工衛星の軌道データからそうした大気密度の違いや変動を検出して、今まで予測していた大気モデルとの差をとらえて、それを将来の大気密度の予測モデルに反映することができると考えています。

画像:超低高度の特色

超低高度の特色

―SLATSが集める情報、確立していく技術としては、ほかにどのようなものが挙げられるでしょうか?

SLATSは分解能が30mくらいのものと1mくらいの高い分解能をもった小型の光学センサを搭載しています。そうしたセンサを用いた撮像を行なって、軌道高度に対応した分解能の向上が得られるかどうかの確認もしていく予定です。
そして、SLATSにはもう1つ、重要な任務があります。それは、その領域の大気の支配的な存在となっている「原子状酸素」(Atomic Oxygen:AO)の影響を調べることです。低軌道衛星を運用する際、原子状酸素による素材の劣化が衛星本体に悪影響を与える可能性があるからです。

原子状酸素からいかに人工衛星を守るか

―SLATSの軌道上には、人工衛星にとって障害となる物質が存在するということですか?

地上では酸素はO2という分子の状態で存在していますが、人工衛星が飛行する高度では、酸素分子は紫外線の影響によって解離して、原子1個の状態で存在するようになります。酸素分子、窒素分子、水素分子に加えて、原子状の水素、窒素やヘリウムなども存在はしていますが、地上200kmから600kmの高さになると、その中でも原子状酸素の割合が増えて、支配的な物質となります。
原子状酸素は、物質と反応しやすい性質をもっています。人工衛星の外側に金色に見えるフィルムが貼られているのを見かけることも多いと思いますが、あの金色に見えるフィルムはポリイミドという材料でできていて、人工衛星を高温、低温から守る断熱(熱制御)の役割を果たしています。ポリイミドは放射線に強い優れた素材なのですが、その反面、原子状酸素と反応しやすく、劣化しやすい傾向があります。もしもポリイミドが劣化したり破損したりしてしまうと、人工衛星の熱制御がうまくできなくなって、太陽光が当たると温度が高くなりすぎ、当たらないところだと低すぎるようになってしまいます。そういう状態が長く続くと、人工衛星の故障にもつながりかねません。そのため、原子状酸素に対する耐性をもった物質をポリイミドフィルムの上に塗布して耐性を上げているのですが、そのフィルムが運用中も問題のないことを確認するという任務もSLATSにはあります。

画像:原子状酵素フルエンス計測

原子状酵素フルエンス計測

画像:ポリイミド劣化

ポリイミド劣化

―人工衛星の安全性は、具体的にはどのようにして評価されるのでしょうか?

原子状酸素が多い軌道で物質がどのように劣化していくのか調べるために、SLATSはさまざまなサンプルを搭載しています。
まず、写真撮影によって、そうしたサンプルの見かけがどう変化したかを観察します。
また、質量を測定する装置を使ってサンプルの質量がどう変化したのかを調べて、原子状酸素の入射量を評価します。それぞれのサンプルは振動を与える台の上に取りつけられていて、そこには振動数を測るセンサが取りつけられています。計測された振動数の変化からサンプルの質量変化がわかるしくみです。こうしたサンプルは、衛星の進行方向に対して前方、側面、後方にそれぞれ取りつけられて、条件ごとの違いを調べる予定です。

画像:SLATS搭載サンプル機器

SLATS搭載サンプル機器

ゆっくりと実験軌道へ

―SLATSは、どうやって予定高度に運ばれるのですか?

H-IIAロケットを使い、気候変動観測衛星のGCOM-Cと相乗りで打ち上げる予定です。まず、GCOM-Cの予定軌道である798kmの高度まで上げられて、ここでGCOM-Cを分離。その後、SLATSがむき出しになった状態で、ロケットの再着火機能を使って高度を下げていき、530kmくらいでSLATSを分離します。530kmはまだ十分に高いのですが、そこから軌道を少しずつ変えながら、ゆっくり268kmまで降ろしていきます。
SLATSの本格的な実験は268kmからで、268kmで31日間軌道を保持して、次に250kmで一週間保持します。さらに240kmで一週間、230kmで一週間、その次に220kmで31日間軌道を保持する。このように少しずつ軌道を下げていきながら、「軌道が保持できること」を確認します。そのあと最後に、180kmの高度で地球を周回しますが、180kmの高度になると大気抵抗が大きくなってイオンエンジンだけでは十分な高度の保持ができなくなるため、ガスジェットを使って軌道を保持していく予定です。

画像:経過日数と高度

経過日数と高度

―268kmと220kmで高度を31日間維持することにはどのような意味があるのですか?

実は地球の高層にある大気は、太陽活動の影響を受けて変化しています。その影響を調べたいという考えから、高度を31日間維持するプランができました。太陽は27日かけて自転しているため、太陽活動の影響も27日周期で出ることがわかっています。そのため、太陽の自転周期を超える期間を設定しているわけです。

―本格的な実験は3ヵ月ほどになるようですが、SLATSの運用期間はかなり短いのでしょうか?

SLATSの運用は2年間を予定しています。なにが起こるか予断を許さない低軌道の実験ですから、初期段階ではできるだけ推薬の消費量を抑えたいと考えています。そのため、SLATSが分離された高度530kmから268kmまで降ろしていくのに若干はガスジェットも使うものの、降下にあたっては、大気抵抗を使ってゆっくりゆっくり軌道を降りるように設定しています。
SLATSは太陽光線と人工衛星の軌道面とのなす角がほぼ一定となる「太陽同期軌道」に投入される予定ですが、イオンエンジンの電力を確保するために打ち上げ直後の地方太陽時が10時30分の軌道からじっくり1年をかけて、高度268km、地方太陽時が16時の軌道にもっていくスケジュールとなっています。メインの実験期間は約3ヵ月ですが、運用期間の2年には、そうした時間も含まれているからです。

将来は低コストの人工衛星開発も可能に

―SLATSで得られた成果は、今後、どのように生かされていくのでしょうか?

超低軌道の人工衛星に搭載された光学センサは、人工衛星が地表に近づいた分だけ分解能が上がるため、高解像で撮像できるようになります。電波を使った観測は、同じ電波でも、高度の低い人工衛星は強い電波をアンテナに受信できることから、信号の品質が向上します。また、同じ性能で良ければ、望遠鏡のサイズや送信する電力を小さくすることも可能になるので、センサを小型化できるようになり、その開発費も下げることができて、大幅に低コスト化ができるようになります。こうしたことによって、人工衛星そのものがより低いコストで製造できるようになると考えています。さらに、超低軌道衛星が完全に実用化されれば、今までになかった新しいミッションも増えてくることになります。

画像:軌道高度と観測センサ性能の関係

軌道高度と観測センサ性能の関係

―どのようなミッションが新たに生まれてくるのでしょうか?

これまで観測ロケットを用いて極めて短時間の直接観測しかできなかった地球の超高層大気を一定の期間にわたって、直接観測できることに大きな期待が寄せられています。また、地上の大気に比べて変動が早く、大きいといわれている高層大気の変動を捉えることによって、地上の大気変動を予測することができるようになるかしれません。このほか、超低軌道では地球規模で重力場を感度良く測ることができます。重力場がほかと違う部分を見つけて、そこから地殻の構造やその変動であるとか、海洋の深層流を把握することも研究されています。そうした観測を気象変動予測や資源探査に役立てていけるかもしれません。また、低い軌道であれば、より強く磁場を計測することができますから、そうした観測から磁場の変動をとらえることで、火山活動に伴うマグマの動きなどがわかれば、火山の噴火予測などにも役立つかもしれません。
ここで紹介したのはほんの一例ですが、超低軌道衛星の技術が実用化されることで、新たな多くのミッションに繋がっていく可能性があると考えています。

瞬間瞬間が勝負!

―SLATSの開発は現在、どこまで進んでいますか?

現在、詳細設計の詰めをやっているところです。秋にその審査があって、そこで人工衛星全体の設計が確定します。地上システムも、その時点で確定して、ものづくりに入っていきます。来年度からは組み上げた衛星のシステム試験を本格的に行なって、2016年度の打ち上げに備えていきます。

画像:超低高度衛星技術試験機(SLATS)プロジェクトマネージャ 佐々木 雅範(1)

―プロジェクトマネージャとして、どのようなところにやりがいを感じていますか?

SLATSは、開発そのものももちろんそうなのですが、打ち上がったあとの運用も大変なことが予想されます。人工衛星の運用としては、やったことのないことの連続になりますから、困難は大きいでしょう。例えば、ロケットから切り離された後、大気の抵抗を使って軌道を下げていく過程をしっかりと計算して、降りないといけないわけです。
また、人工衛星の動きを地上局から追うにあたっても、大気抵抗のせいで軌道がどのぐらいずれるのかなど、やってみてはじめてわかることも予想されます。突然太陽活動が活発になった場合なども、予定する人工衛星のコースに影響が出てくる可能性があります。そんな事態も含めて、いろいろ想定して対策は考えながら進めますが、なにが起こるかわからないところがあって、かなりスリルも感じそうです。しかし、大変な思いをする分、これまでにない知見が蓄積できると思いますし、こうした点も、やりがいになると思います。

―佐々木さんがJAXAに入社したきっかけは何だったのでしょうか?

学生の時に電気推進機の研究をやっていたこともあって、その研究の知見を生かせる場所として宇宙関係のところには興味を持っていました。それが、JAXAの前身である宇宙開発事業団(NASDA)を就職先として選んだ大きな理由です。また、宇宙のよいイメージに引かれた部分もあります。未知の分野にあこがれた部分もあります。宇宙にはまだわからないこともたくさんあるし、研究テーマとして難易度も高いし、そうした国家プロジェクトに参加できたら非常にやりがいがあるなぁと思ったんです。

画像:超低高度衛星技術試験機(SLATS)プロジェクトマネージャ 佐々木 雅範(2)

―プロマネとして普段から心がけていることはどんなことでしょうか?

プロジェクトの業務について私は、「一期一会」のようなイメージを持っています。その瞬間瞬間が勝負だと考えていますので。過去を遡ると、「あのときこうやっておけばよかった」と思うことがあります。新規開発なので、その時はわからないことがあるわけですが、やっているうちに技術的な知見が深まり、「こうすればよかった」と実感することがしばしばあります。しかし、あとから時計の針は戻せません。大事なことは、その瞬間瞬間、これが最後だ、チャンスは一度きりだと思って判断する、その繰り返しなんです。そうすることで今まで見えなかったものが見えてくる。次に繋げるために今を最大限にしてやっていく。そんな姿勢でありたいと思います。そう考え、行動することによって、プロジェクトのメンバーも私自身も成長していくのだと思います。その日その日を真剣に生きないと、次に繋がっていかないし、プロジェクトは成功に導けないと思っています。

(取材日:2015年6月)

プロフィール

画像:超低高度衛星技術試験機(SLATS)プロジェクトマネージャ 佐々木 雅範(3)

佐々木 雅範(ささき・まさのり)

JAXA第一宇宙技術部門 SLATSプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ
入社後、ほとんどの期間を衛星開発の現場で過ごす。通信放送技術衛星「かけはし」(COMETS)など8機の開発に携わったのち、SLATSプロジェクトへ。2014年10月より現職。

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