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気候変動の要因である、雲とエアロゾルの
分布や動きを詳しく調査する世界初の試み

雲エアロゾル放射ミッション/雲プロファイリングレーダ
EarthCARE/CPR
プロジェクトマネージャ富田 英一

画像:地球観測衛星EarthCARE

地球の気候は常に変動しています。二酸化炭素などの温室効果ガスによる温暖化が大きな問題となっていますが、地球の温度や大気の状態を変化させる要因として、雲やエアロゾルの影響も無視できません。
EarthCARE(Earth Clouds, Aerosols and Radiation Explorer)は、 雲とエアロゾルの正確な量や分布を観測するための新たなミッションです。

より正確に温暖化を予測するために必要なミッション

―このミッションがスタートした理由を教えてください。

「地球温暖化は疑う余地が無い」とIPCCという国際機関から報告されています。しかし、これから、どのように温暖化が進んでいくのか、現在手に入る情報をもとに、多くの研究者が気候のモデルを作って予想を立てていますが、まだまだ情報が不足しているために、提出されたモデルには誤差が含まれていて、何年後に気温が何度上がるのか、意見の一致はありません。例えば、最新のIPCC報告書でも、百年後の気温は、研究者によって2.6度~4.8度の幅で2.2度も予測が違っていたりします。

気温の変動予測 (IPCC2014年報告)

温度が違うと、起こってくる環境への影響も変わってきて、当然、その対策も違ってきます。そのため、まずはモデルの予測精度を上げなくてはなりません。不足している情報を集めて変動予測の誤差を小さくしていくこと、それがEarthCAREのミッションです。

―EarthCAREは、地球温暖化対策の一環と考えていいのでしょうか?

温暖化予測に誤差をもたらす大きな要因の1つとして、「温室効果ガス」が指摘されています。二酸化炭素だとか、メタンだとか、そういうガスですね。もう1つ挙げられているのが、雲と、エアロゾルなんです。エアロゾルというのは空気中に漂う細かい粒子のことで、地上の砂ぼこりが舞い上げられたものや、火山に由来するような自然のもののほか、工場の排煙だとか、車の排気ガスだとか、人が出す物質も含まれています。
温室効果ガスについては、二酸化炭素などによる気温上昇のメカニズムはよくわかっているので、あとは量がどのくらいあるのかを測ってやればよく、JAXAの人工衛星としては、「いぶき」(GOSAT)やその後継機GOSAT-2が観測します。
一方で、雲やエアロゾルが長期・短期の気候変動に実際にどのように影響するのかは、正確にはわかっていません。より正確な将来の予想モデルを作り上げていくために、地球の大気中の、どこにどのくらいの雲やエアロゾルがあるのかを、私たちは知る必要があります。

―雲は地球の温度にどのような影響をおよぼしているのですか?

雲は、地球から熱を逃がさない、毛布のような役割を果たしています。同時に厚い雲は太陽の光を遮るので、地表を冷却化する効果もあります。一般に、高いところにある雲というのは、太陽を遮る効果よりも、地球から熱が逃げるのを防ぐ効果の方が大きくて、温暖化に寄与するといわれています。一方で、低く垂れ込めるような雲は、地表に太陽の光が届くのを遮るので、冷却化に寄与します。それが、いわゆる「日傘効果」です。こうしたことから、地球上の雲が、どの高さに、どのように分布しているか知ることが重要になりますが、これがわからないと、雲が温暖化と冷却化のどっちに寄与するのかわかりません。

画像:雲とエアロゾルの影響

雲とエアロゾルの重なり

―エアロゾルはどのように影響を与えているのでしょうか?

エアロゾルの影響については、例えば雲の上にあるのか、下にあるのかで変わります。エアロゾルが雲の上に分布すると、白い雲に比べて太陽光をあまり反射しません。つまり、より温度を上げていく方向に働くわけです。逆に雲の下にあると、その効果はありません。つまり、雲やエアロゾルの高さ方向の分布を同時に正確に知る、ということが大切になってきます。

EarthCAREが目指すミッションと搭載された観測機器(センサ)

―雲とエアロゾルを同時に観測できるEarthCAREとは、どのような人工衛星なのですか?

EarthCAREには、雲の高さと速度を測るセンサのほか、エアロゾルの高さを測るセンサ、雲の水平分布を見るセンサ、放射計と呼ばれる雲や地表などの温度を測るセンサの4つが搭載されています。1つの人工衛星にこの4つを積み、同時に測定するのはこのEarthCAREが世界初です。このプロジェクトはJAXAと欧州宇宙機関(ESA)の共同ミッションで、それぞれが開発したセンサが1つの人工衛星に積み込まれます。

―4つの観測装置の機能と分担を少し詳しく教えてください。

4つの観測装置(センサ)のうち、日本が担当するのは雲の高さを正確に測る「雲レーダ(雲プロファイリングレーダ)/(CPR:Cloud Profiling Radar)」で、EarthCAREの進行方向、先端部に取りつけられています。このレーダは、JAXAと情報通信研究機構(NICT)が共同で開発を進めてきたもので、雲の中の水粒子と氷粒子が上下方向に動く速度を計測する機能をもっています。雲レーダは以前にアメリカが打ち上げた人工衛星CloudSatにも搭載されていましたが、雲の粒子の速度を測る機能はなく、この点ではEarthCAREが初となります。

画像:EarthCAREに搭載された4つの観測機器(センサ)

EarthCAREの観測装置

残りの3つのセンサは欧州宇宙機関の担当です。EarthCAREの真ん中にあるのが光を使った大気ライダ(ALTLID)というセンサで、周波数が高い光を使ってエアロゾルやごく薄い雲などが高さ方向にどう分布しているのかを測ります。その後方には、水平方向にどれだけ雲が広がっているか観測する多波長イメージャ(MSI)というセンサがあります。この3つのセンサを使って同時に計測することで、地球全体の雲とエアロゾルの構造が立体的に(3次元で)わかるようになり、ここで得られたデータによって、より正確な未来予測が立てられていくことになります。
またEarthCAREは、広帯域放射収支計(BBR)と呼ばれるセンサを搭載し地表や雲から出る放射輝度、放射フラックス、放射量を測ります。放射量とは、簡単に言うと温度に相当します。このセンサで実際に測った放射量と、他のセンサの観測とシミュレーションから出した放射量が合うかどうかを確認することで、気候変動予測のさらなる精度の向上が期待されています。

―CPRは、雲の中の水の粒子の動きを捉えることができるとお聞きしましたが、詳しく教えてください。

動いている物体に電波を当てると、はね返ってくる電波の周波数がドップラー効果によって変化します。その変化を利用して、雲の上下の移動速度を観測します。地球温暖化予測の気候モデルでは、雲の粒子の速度も重要な要因になるのですが、これまで人工衛星を使った観測はできなかったので、地上から、ある特定の場所をレーダで測ったものをモデルに入れていました。EarthCAREでは世界中の実測データが利用できるようになりますから、それによってモデルの精度は大きく向上すると考えています。

EarthCAREの軌道と雲レーダ観測の特徴

―EarthCAREはどのくらいの高度や周期で地球を周回しているのですか?

高度は400kmくらいです。先行する米国の地球観測人工衛星CloudSatは700kmくらいの軌道を回っているので、これと比べると、かなり地球に近い軌道ということになります。ここまで高度を下げられると、弱い電波も減衰して弱まる前にキャッチできるようになり、より薄い雲まで観測することが可能になります。また、直径2.5mという大きなアンテナを採用したことで、微弱な電波も受信しやすくなりました。
衛星は25日で同じ場所に戻ってきます。地球を一周するのに約90分かかりますから、25日間に地球を約400周する計算です。

プロジェクトは最後の山場へ!

画像:EarthCAREに搭載される雲レーダ

雲プロファイリングレーダ(CPR)の
技術試験モデル

―プロジェクトの進行状況について教えてください。

日本が担当する雲レーダは、ほぼ完成して、今は性能を詳細に測っているところです。この性能測定が終わると、筑波宇宙センターに運んできて環境試験に入ります。これは打ち上げや、宇宙環境に耐えられるかどうかという試験です。人工衛星本体の組み立てや打ち上げは欧州宇宙機関の担当なので、完成した雲レーダは欧州に運んで人工衛星として組み上げていくことになります。年度内には開発を終え、欧州に引き渡す予定です。
2017年度の打ち上げを目指して開発を進めています。打ち上げ後、センサの動作を半年ほど宇宙空間で確認してから実際の観測に入る予定です。

―雲レーダの開発で苦労したことを教えてください。

今回は、欧州宇宙機関との初の共同開発でした。やりとりは基本的に英語になるわけで、言葉の問題というのはやはりありましたが、それ以上に苦労したのが、技術の背景や、文化の問題でした。特に、運用の考え方や、ソフトウェアの要求などについて、お互いによく話をしていかないと、認識にズレが出てしまうんですね。そうしたこともあって、双方が慎重に、細かいところを確認しながら進めていったことが最大の苦労でした。言語が違い、ものづくりの文化が違うからこそ、コミュニケーションがより大事ということを実感しています。

日本の宇宙技術の進歩を現場で実感!

―富田さんがJAXAに入社したきっかけを教えてください

私の入社は1991年になります。当時の日本は、自動車や電子産業などはかなり力をもっていましたが、宇宙の分野はアメリカなど最先端を走る国と比べると、まだ、これからといった状況でした。そんな日本の宇宙分野の力を強くしていくために貢献したいと思い入社を決めました。

画像:「EarthCARE/CPR」プロジェクトマネージャ 富田 英一(1)

―JAXA内では、これまでにどのような職場を経験されたのですか?

最初の赴任先は種子島で、ロケット打ち上げの際の追尾レーダを担当しました。最初に私が関わったのは、放送衛星の3号(BS-3b)です。静止軌道上で550kgなので、今だと小型衛星の扱いになりますね。種子島から戻った後、開発に携わったのが通信放送技術衛星「かけはし」でした。1998年に打ち上げられた「かけはし」は静止軌道上で2t。私の入社から7年目のことです。宇宙に持っていける人工衛星の重量が550kgから2tへと至るなど、日本の宇宙技術が一気に世界レベルに追いつくように駆け上がっていくダイナミックな時期でした。良い経験が出来たと思います。

―そうした経験や背景が今の富田さんを形作っているわけですね。
プロジェクトマネージャとして、どんなところにやりがいを感じていますか?

打ち上げのプロジェクトは国の計画にのっとってやるわけですが、こういった最先端の人工衛星の開発に直接たずさわり、実際に打ち上げまでやれることは、本当にすばらしいことだと思います。どういう結果になったとしても、それまでに自分たちが考え、自分たちの手で作り上げてきたことがあっての結果ですから、いいことも悪いこともすべてがクリアになるという点において、努力や工夫のしがいのある仕事になっていると思います。

―プロマネとして、普段から心がけていることがあれば教えてください。

開発計画を成功させることが任務ですので、そのために必要なことを1つずつ確認し、1つずつ積み重ねをしていく、ということです。今回のようなミッションでは、相手として欧州宇宙機関がいたり、情報通信機構がいたりするなど、関係者が多数にわたるため、いろいろと複雑になりがちです。ですので、なるべく可視的に、誰が見てもわかるようにして、不明瞭なところを無くすように力を入れています。メンバーそれぞれに担当の部分で最高の成果を上げてもらうためには、お互いがよく見える状態でやっていくのが必須だと思っています。

(取材日:2015年6月)

画像:「EarthCARE/CPR」プロジェクトマネージャ 富田 英一(2)

プロフィール

画像:「EarthCARE/CPR」プロジェクトマネージャ 富田 英一(3)

富田 英一(とみた・えいいち)

JAXA第一宇宙技術部門 雲エアロゾル放射ミッションEarthCARE/CPRプロジェクトマネージャ
通信放送技術衛星「かけはし」(COMETS)、超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)の開発に関わったのち、新規の衛星計画を検討する部署を経て、EarthCAREのプロジェクトへ。2013年2月より現職。

関連情報

インタビュー一覧

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